同時に、その段違いの実力と、誰とも親しくなろうとしない態度から、同期の間では早くから反感を買ってしまっていた。数少ない女の訓練生からも受け入れられなかったのは、母親似だという美貌のせいもあったかも知れない。
 そういう彼女を男連中がどう見ていたかは推して知るべしで、痛い目に遭わせようとした奴らも少なくなかった──様々な意味で。
 レシーが、家業を継ぐ必要のない次男とはいえ、あえて軍の訓練生という道を選んだのは、そういった事態を危惧したからだった。フィリカが集団の中で孤立するだろうことも、良からぬ真似の標的にされるであろうことも、簡単に予測できたからだ。
 気づく限り、レシーは特に後者の事態を回避すべく奔走した。結論から言うと孤立は避けられなかったが、フィリカが男連中の餌食になるのは食い止められた。
 ……いや、それも実は正確ではない。レシーが止めさせた場合もなくはないが、彼女に妙なことを仕掛けようとした奴らは全員、逆に痛い目に遭わされる羽目になったのである──文字通りに、それも容赦なく。
 半年も経たないうちに、どんな意味であろうと、フィリカに手出しする連中はいなくなった。反感を持たれる以前に、恐れを抱かれる存在になってしまったのだった。
 そんな彼女に、職務上必要のある時は別として、自分から近づく人間は今でもほとんどいない。例外なのは昔馴染みのレシーと、毎年の新入隊者の一部ぐらいである。後者はつまり、フィリカの外見に興味を持ち、且つ噂をあまり信用しない、ある意味では度胸のある男たちだ。そういう連中を、彼女は空気のようにあしらっていたし、力づくで何かしようとした場合の結果は言うまでもなかったので、彼らの興味は非常に短い間しか続かないのだが。
 そうして、彼女の印象は年々固定されていく。男を男とも思わず、女らしさどころか人間らしい感情にも欠けた、冷えきった女だと。
 それを耳にするたび、様々な感情が湧き上がる。自己防衛の結果とはいえ、フィリカが氷みたいな女だと思われている現実には悔しさも感じた。
 本当は優しい娘なのに。
 確かに彼女は一見、いや実際にひどく素っ気ないが、例えば目の前で困っている相手を見捨てたりはしない……否、できない性格である。子供の頃、迷い犬のために一晩中雨の中にいて、高熱で二日間寝込んだことがあったぐらいだ。そういう、不器用で頑なほどの優しさは今でも変わりないと思うし──だからこそ惹かれるのも事実だった。
 だがフィリカのそんな性格が、彼女自身に危機をもたらしかねない状況に陥らせている。少なくともレシーはそう考えていた。
 今年軍に入ってきた者の中には、厄介な人物がいる。数週間前、やむを得なかったとはいえ、フィリカはその人物と一悶着起こしてしまっていた。
 レシーが近頃感じているもどかしさ、不安の原因はそこだった──あいつが、このまま何もせずにいるはずがないと思うから。