…結果、秋穂さんは“大狗祭りの試練”で、呆気なく命を落とした。
彼女がこれまで必死に隠し続けてきた、三つの大きな嘘が、暴かれてしまったためだ。
一つ目は、実は犬居の娘なんかじゃなく、外山から来た妾であること。
…二つ目は、幼い娘を生贄に差し出すまいと、自分が代わりに生贄に名乗り出たこと。
彼女がどんな時も巡礼をやめなかったのは、狗神への信心だけじゃない。愛する娘の命を守るためだったのだと、この時ようやく思い知った。
血まみれで、息も絶え絶えで、目も霞んで、あんなに強かった秋穂さんの死に行く姿に、おれは寄り添うだけでどうすることも出来なかった。
【………秋穂さん…。】
おれがあの時、彼女を連れて山から逃げ出していたら、未来は違ったのかな?
【…秋穂さん……。】
彼女の小さな唇が、
「…ぎ、ら、ん、さ、ま………。」
おれの名を呼んで、そして死に際の願いを託してくれた。
「……むすめを……。
早苗を、どうか、まもって…。」
【……早苗……。】
秋穂さんが命をかけて庇った娘…。
願わくば、“秋穂とおれの子”となることを夢見た娘…。
【……分かった。
約束するよ、秋穂…。】
「………ね、義嵐様…、わたし…、」
秋穂が死に際に見せたのは、とても安らかな笑顔だった。
「……義嵐様と、夫婦に、なりたかった……。」
そうして、三つ目…。
おれが喉から手が出るほど欲しかった言葉。やっと彼女の本心を知れた時には、何もかもが手遅れだったんだ。