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翌朝、わたしの心はどこか晴れやかでした。秘めていた気持ちを、義嵐さまに聞いていただけたおかげでしょう。
わたしの身を護るような体勢のまま、義嵐さまは目を瞑り、静かで規則的な寝息を繰り返していました。
起こしてしまわないよう、ゆっくりゆっくり腕の中から抜け出すと、わたしは社の中を見回します。
「……………。」
仁雷さまの姿がない。
昨夜、義嵐さまに周囲の見張りを託されて、外で夜を明かされたのかしら。もしかしなくとも、わたしのせいで…。
四つ足で出入り口まで進み、少し戸を開いて外を窺えば、柔らかな朝の木漏れ日の中に、仁雷さまは一人佇んでいました。
太陽に顔を向け、全身で朝日を感じている。芒色の髪がきらきらと輝く姿はあまりに神々しく、わたしは思わず目を奪われてしまいます…。
「……………仁雷さま。」
お名前を呼んだのは無意識のことでした。
ゆっくりこちらへ顔が向けられ、仁雷さまの綺麗な、深い琥珀色の瞳が、わたしの姿を映します。
「…さ、早苗さん………。」
恐る恐る…といった様子のお声。
わたしの中でまた、高揚感と悲壮感が同時に襲い来る。
けれど、負けては駄目。義嵐さまと約束したのだから。
『いつものように仁雷と接してやって。君にとってもあいつにとっても、別れの時に悔いが残らないようにさ。』
わたしは平静を心掛けます。きっとぎこちなくて不自然な振る舞いに見えることでしょう。
それでもただ目の前の仁雷さまだけを見て、感謝の言葉を述べるのです。
「……ひ、一晩中、見張りをしてくださったのですね…。ありがとうございます。骨が折れたでしょう…。」
「…イヤ、これが役目だから…。」
仁雷さまは戸惑いがちに視線を足元へ逸らし、かと思えば、また恐る恐る、わたしの目を見てくださいます。
「……早苗さん、すまない。
俺の不甲斐無さに、呆れているんだろう…?
お使いのくせに逆に助けられて…本当に、格好が付かないよな…。」
「えっ…。」
その時、わたしはなぜこんなにも仁雷さまに心惹かれてしまうのか、分かった気がいたしました。
「…うふふ、ふふふっ、ふ…。」
「……えっ、……な、なんで笑うの……?」
仁雷さまの真面目な性格。
それは仕来りや責任を重んじるばかりでなく、まるで子どものように澄み切った純粋さに起因するもの。
底巧や慢心など一切ない。だからわたしは当たり前のように、心を開くことが出来た…。
「……うふふ、ご、ごめんなさいっ…。
…ふふ、どうか謝らないでください。わたしは仁雷さまのこと、不甲斐無いなんて思ったことありませんわ。
心から、信頼しています…。」
「…そ、そうか……ありがとう…。」
仁雷さまの顔に、安堵の色が戻りました。
困らせたくない。いつまでも仁雷さまには、安らかであってほしい…。
そうしてわたしは誓うのです。この想いは決して、仁雷さまには打ち明けまいと。