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おかしい。これはおかしい。
仁雷の挙動は見慣れたもんだが、しっかり者の早苗さんまで…。これじゃあまるで、仁雷が二人に増えたようじゃないか。
平野への道中は獣道続きであるものの、早苗さんが粛々と歩みを進めてくれるおかげで、予定通りに到着出来そうだ。
…ただ、
「…………。」
先導する仁雷は、歩いている時も休憩時もずーっと、丸一日黙ったまま。
おれが手を引く早苗さんもまた。
「………………。」
元々お喋りな子ではないけれど、それ以上に声を出すのを控えて、黙り込んでしまっている。
まさか、とは思う。
昨夜、仁雷の胸の内はハッキリした。予想通りといえばまあ予想通りだ。
…しかし、早苗さんは?
普通に考えれば、仁雷と同じ理由に思えるが…それにしても避け過ぎじゃないか?
もしかして、早苗さんはもっと複雑な…?
「……はあぁぁ…。」
大袈裟に溜め息を吐いて主張してみても、二人とも相手してはくれなかった。
板挟みになってるおれの気持ちなど、二人は気にも留めないだろうな。
「……保護者は辛いなぁ。」
つい漏れ出た独り言にも、反応してくれる者はいない。それが一層寂しさを際立たせた。