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仁雷と早苗さんと別れて、早二日。
その間も、おれは緋衣の塒の座敷牢で、軟禁生活を余儀なくされていた。
「………っ、……っ……。」
暇を持て余し、指一本で逆立ちをしてみたり、宙返りをしてみたり。
そんなおれの様子を監視するのは、いつも決まって、
「よくそれほど、飽きもせず体を動かしていられるのう、お使い殿。」
塒の主たる緋衣だ。興味津々と言った眼差しで、おれの体を眺めている。
おれは着物で汗を拭い、水の張られた器を舐める。
「あんたもよく飽きないよな。そんな警戒しなくても、おれは逃げないぞ?
ほらそれ、狗神の呪いだろ?」
檻の扉口に、見覚えのある紋様が刻まれている。あれは狗神特有のもので、一介のお使いであるおれに破れる代物でないことは分かりきっていた。
「ホホ、警戒などしておらぬよ。
…ただ、居ても立っても居られぬだけじゃ。」
緋衣は浮かない顔を見せる。
当然と言えば当然だ。
「…早苗さん、まだ見つからないのか。」
「…………。
猿達に捜させておるが、…未だ。」
試練には早苗さんが必要不可欠。
しかし、緋衣がいくら猿を使って行方を追っても、この広い山の中を見つけられないらしい。
青衣の縄張りに入ったのか?
仁雷が機転を効かせて、山犬達の元へ向かったか?
まさか早苗さん一人になったとは考えにくい…考えたくはないが…。
「緋衣、試練を早苗さん一人に挑ませたい気持ちは分からんではない。
けど、彼女は貴重な犬居の娘だ。あんたはあの子の訪れを十年も待った。こんな所でみすみす手放したくはないだろ?
また十年を無為に過ごす気か?」
おれは檻を両手で握る。
その両手が、鋭利な爪を有する山犬の前足へと変化する。
【おれなら見つけ出せるよ。
あの子の匂いなら、死んでも忘れないからな。】
今のおれから駄々漏れる“執着”のにおいは相当なものだろう。緋衣は緊張の面持ちで、檻に施した封印の紋様を見つめる。