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「俺達も貰うか、義嵐。」

早苗さんと緋衣の平和なやり取りを眺めていると、仁雷がそう提案してきた。

あの懐剣は巡礼に必要な大切な宝だから、いつものように大切に大切に保管して、肌身離さないものと思っていたのに。ここまで来たら認めざるを得ない。早苗さんは育ちの良さそうなお嬢さんの見かけながら、肝の据わった破天荒娘だ。勿論褒めている。

「…んー、じゃあまあ、せっかくだから。」

破天荒娘の丁寧に剥いてくれた桃を一切れ摘み、口へ運ぶ。
うん、美味い。山で採れる、馴染みの桃だ。

チラッと仁雷の方を見る。早苗さんから差し出された盃を、ややぎこちない動きで受け取っている。
全く、いつまで経っても慣れない奴だ。
その様子がもどかしくて、おれはつい揶揄(からか)いたくなる。

「仁雷、早苗さんの綺麗な手で剥かれた桃の味はどうだ?絶品か?」

「…義嵐っ!!」

予想通り。今にも噛み付かんばかりの恐い顔だ。

次いで、おれは早苗さんのほうを見る。
もてなされる側のはずがいつの間にか、小さな体で忙しなく動き回ってる。
くるくる変わる表情。とても目が離せない。あの若草色の着物もよく似合っていて…遠い記憶がぼんやりと浮かび上がってくる。

「………。」

今や、緋衣やお猿達とも何だかんだ良い雰囲気だ。早苗さんは一見奥手なようで、心を開きやすい。根が素直だからだろう。

巡礼の旅を始めて日は浅い。が、確かに早苗さんとおれ達の間には、絆と呼べるものが芽生えていると思う。
仁雷はもちろん、おれも早苗さんのことは護ってやりたいと思ってる。護ってやりたい…最後まで。

ーーーだけど、“最後”に辿り着いたら?


「ーーー……義嵐さま?」

「…っ!」

考え事に没頭しすぎた。
いつの間にか目の前に、水瓶と柄杓を携える早苗さんの姿があった。

「…ご気分は大丈夫ですか?お水、飲まれますか?」

自分の周囲を見下ろせば、かなりの数の空の酒瓶が転がってる。蟒蛇が度を越して、途中から飲んでる感覚を無くしてたのか。

「ぜーんぜん大丈夫だよ、早苗さんは心配性だ。」

余裕の笑みを見せれば、不安げだった早苗さんの表情に安堵の色が浮かぶ。

「あ………。」

その顔に、優しい表情に、おれはある感情が湧き上がるのを覚えた。

…前言撤回。酔いが回ってるのかもしれない。緋衣や猿達や仁雷が見る目の前で、おれは彼女の小さな体を抱きしめていた。

「……ぎ、義嵐さま…っ?」

彼女の驚いた声が聞こえる。
仁雷の蒼白の顔が視界の端に見える。

でも、不思議と抑えられない。
胸の中に湧き上がった想いが、おれの意思に反して口から零れ落ちた。


「…おれは、きみ(・・)を好いているよ。」