お二人に連れられ、雉子亭へ戻ったわたし達。
怪我とぬめり塗れの体と、傍らに携えた大きな雉喰いの抜け殻を見て、君影さまを始めとした雉の皆さまは言葉を失っていました。

「……驚きました。まさか本当に、雉喰いを退治されるなんて…。」

驚きを隠せない君影さまに、義嵐さまが不服そうに言い返します。

「白々しいこと言うなよな。お前が焚き付けたんだぞ?」

次いで、仁雷さまが一歩前へ進み出ます。傍らの大きな殻に手で触れながら、

「望み通り、雉喰いの殻を持ち帰った。
後始末はお前達に任せる。
…これで文句は無いな。早苗さんは第一の試練を達成した。」

落ち着いているけど、力強い声…。
君影さまはしばし言葉無く、仁雷さまを見つめていましたが、やがて深々と頭を下げられました。

「……早苗様、お使い様。私共は本当に敬服しているのです。雉喰いによって幾多の同胞を亡くしてきましたから。
心より感謝申し上げます。

そして、…おめでとうございます。
早苗様が此度の試練を乗り越えられたこと、大変喜ばしく存じます。」

君影さまに倣い、竜胆さまや…お姉さま方も深く頭を下げる…。

「…………し、試練、達成…。」

わたし、試練とやらを乗り越えたのね…。
呆然とする頭の中に、じわじわと湧き上がる実感。恐怖もまだ濃く残っているけれど…それ以上に、これまで感じたことのない達成感に満たされていました。

ふと、わたしはこれだけは伝えなければと、仁雷さまの後ろから一歩前へ進み出ます。

「…あの、君影さま。
お役に立てたのなら幸いです。…けれど本当は、竜胆さまにいただいたお塩のおかげなのです。」

懐から、すっかり空っぽになってしまった小箱を取り出します。

「…これが無ければ、わたしも雉喰いに食べられていたかもしれません。
だから、お礼を言うのはわたしのほうなのです。ありがとうございます。」

君影さまは小箱と、わたしの顔を交互に見つめます。彼の表情はひたすら驚きの色に満ちていて、やがてその目をゆっくり閉じました。

「言葉もありません。早苗様は充分すぎるお方だ。…お使い様方、どうか早苗様を“最後まで”お護りくださいませ。」

「…元よりそのつもりだ。」

君影さまの託すようなお言葉に答えたのは、芒色の髪の仁雷さまでした。