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悪夢をみた。
麗子の代わりに妾を多く囲っている華族に嫁がされた。
迎えた初夜では肌身離さずに持っていた組み紐が切れ、しまいには血を飲む狂人と対峙してしまう。
そして、軍人の青年が現れて。
『お前は人間か、それとも――華月か』
青年が言った『華月』とは、一体なんのことなのだろう。
「ん、んん……」
そこで、深月はぱちりと瞼を持ち上げた。
目の前に広がるのは覚えのない西欧風の天井。
(ここはどこ? 私、どうなったの……?)
深月は頭に残る朧気な記憶を懸命に手繰り寄せた。
少しずつ思い出していく。
さきほど悪夢だと思っていた出来事が、全部現実であったということも。
「……そうだ、私っ!」
腕を斬られたんだ、そう思ったところで深月が跳ねるように飛び起きると、すぐに違和感があった。
それに目を向けて背筋がひやりとする。
「なんなの、これ」
自身の両手首に、枷が嵌められていたのだ。
鎖で繋がったそれは、深月が動くたびにガシャンと重々しい音を響かせている。
「気分はどうだ」