いつか最愛になるふたり



 いつの間にか障子は開けられており、そこには見知らぬ男がぽつんと立っていた。

(……音なんて聞こえていなかったのに)

 誰かが室内に入ってくる気配などなかった。
 しかし、現にこうして目の前にいるのだ。深月と誠太郎が揉み合っている隙に入り込んだのだろう。

 男女の初夜がおこなわれるというときに乱入するなど、とんだ不届き者だ。
 けれど、今問題なのは――

「ぐうう、い、痛ぃ……誰か、誰か……」
「旦那様!」

 深月は苦しげに唸る誠太郎に駆け寄る。
 行灯頼りの薄暗い視界でも確認できる大きな刀傷に、深月の呼吸はひゅっと短くなった。

「けへへ、血だぁ、血だぁ!!」

 男の狂気じみた笑い声が響く。
 手には刀が握られている。刃からは誠太郎の肌を切ったために付着したと思われる血が滴っていた。

「稀血ぃ、稀血ぃ!」
(この人……!)

 男の行動に深月は言葉を失った。
 あろうことか、男は刀を掲げると、その血を口の中に一滴ずつ落とし込んでいたのだ。

(血を、飲んでいるの? どうして……どういうことなの!?)

 男の喉元はしっかりと動いている。
 ごくりと胃の中にまで流している証拠だ。

(誰か、人を呼ばないと)

 目の前で繰り広げられる奇怪な行動に恐ろしさが込み上げる。
 それでも力を振り絞り助けを呼ぼうとした瞬間、男は唐突に刀を振り回し始めた。

「おえっ、ちがう! 違う違う違う!! 稀血じゃない! 不味い不味い!」
「ひっ」
 
 意味不明な言動の数々に小さな悲鳴を漏らせば、男の視線が深月に留まる。

 血走った眼球がぎょろりと動き、首がゆっくりと傾いていく。
 深月に狙いを定めるように、なにかを確認するように。
 男の姿には、まるで壊れかけの人形のような不気味さがあった。

「――おまえだぁ」

 男は確かに、深月を見てにやりと笑った。

「わ、たし……?」
「稀血、稀血!! 稀血の匂い!! 稀血の女ァ!!」
「……っ」

 男は刀を振り乱しながら深月に近寄ると、目にも留まらぬ速さで刃を動かした。
 途端に深月の右腕に激痛が走る。
 
「痛っ……う……」

 熱を帯びた鈍痛。左の手で腕に触れると、ぬるりと生暖かい感触がした。

(斬ら、れた)

 それも傷はかなり深いようで押さえた指の隙間から次々と血が流れ出してしまう。
 畳を赤黒く染め上げ、鼻につく臭いが周囲に立ち込めた。