時が過ぎるのは一瞬で、ひと月後には祝言の日を迎えていた。
一ノ宮家の別邸にて執り行われる祝言。
深月は支度を整えると、つかの間の自由を物思いにふけって過ごした。
「ふふ、どうもありがとう。あたしの身代わりさん」
白無垢姿の深月にそう告げたのは麗子だった。
「どこの誰ともわからないおじさんに嫁ぐなんて、絶対に嫌だもの。お幸せに、深月」
ぽん、と肩に手を置いて麗子は去っていく。
深月は何も言わずに無言のまま麗子の背を見つめる。
麗子に言い返すだけの気力はない。
もとから使用人と雇い主の娘という関係であるため、気軽に話してはいけなかったし、なぜだかは知らないが麗子は深月を毛嫌いしていた。
(……幸せに、か)
深月は自嘲するように口元を緩めると、裾を引きずりながら婿となる人の元へ向かった。
***
祝言は滞りなく終わり、すっかり日が落ちる。
深月は用意された室内に通され、呆然と立ち尽くしていた。
(そ、そ、そう……だよね)
肌襦袢だけになった深月は、これからのことを考えてぶるっと震える。
一ノ宮の次男は名を誠太郎といい、四十代後半の男だった。
脂ぎった肌と汗でくっついた髪、身長は深月より少し高いくらい。
麗子に一目惚れをしていたという話だが、祝言では深月を見てにこにこと笑っていた。
「待たせたな」
なんてことを考えていれば、後ろの障子が開かれて誠太郎が入ってきた。
湯浴みは済ませているようだが、やはり少し油っぽい頬。
彼はにやりと笑い、硬直した深月に歩み寄ってくる。
「だ、旦那さ――」
瞬間、深月の体が大きく後ろに下がった。
何が起こったのかわからず一拍ほど思考が真っ白になったが、すぐに理解した。
押されたのだ、誠太郎に。
「深月……ふう、麗子も美しかったが、お前には底知れぬ色気がある。お前でもいいと言って正解だったなぁ」
鼻息を荒くした誠太郎が、じりじりと着物をはだけさせながらにじり寄ってくる。
ようやく深月は、すでに初夜が始まっているのだと悟った。
「ひっ……」
組み敷かれ、思わず小さく声が漏れる。
我慢しなければと唇をきつく引き結べば、上にいる誠太郎が興奮した様子でにやついた。
「いいぞ、いいぞっ。私は嫌がる女を無理やり鳴かせるのが一番好きなんだ」
体にさらに重みが加わる。
誠太郎が饒舌に語っているがまったく聞こえず、深月の思考を支配したのはたった一つだけだった。
(き、き……)
「きもちわるっ!!」