目の前に広がる絢爛豪華な光景に、深月は圧倒されていた。
 天井に吊るされた大きなシャンデリア、音色を奏でる楽器隊、洗礼された身のこなしの給仕に、輝く銀色のカトラリー。
 煌びやかな正装に袖を通す招待客らは、楽しげな様子で社交ダンスに興じている。

「あら、あちらは……朱凰暁様では?」
「本当ね。隣にいらっしゃるのは、どこの名家の令嬢かしら」

 大広間に足を踏み入れた深月と暁は、一斉に好奇な視線に晒されることになった。
 暁の姿に頬を染める淑女がいる一方で、誰もが深月の存在を気にしているのだ。

「……そういうことか」

 大広間に入った瞬間、横に経つ暁の顔色が険しいものに変化した。
 途端に腰を引き寄せられ、互いの息づかいがわかるほどに体が密着する。

「この夜会は、半数以上が華月だ」

 断言する暁に耳を疑った。
 普通の人間と変わらない姿をしている参加者。深月には見分けがつかない。

「華月が、ここまで集うということは……そうか、主催はおそらく――」

 確か、主催者は不明と聞いていた。
 けれど暁は誰なのかを突き止めたらしく、周囲をくまなく警戒している。

(……っ、どうしてこんな時に、動悸が)

 先ほどよりも強くなっていく渇球。心音も激しく刻まれていく。
 それでも醜態は見せられないと、深月は気取られずに背筋を伸ばして優雅に佇んだ。


 異変が起こったのは、弦楽器の音が消える刹那のことだった。

「きゃあああ!」

 前触れもなく大広間の照明がすべて落ち、あたりは暗闇に包まれた。
 突然の事態に騒ぎはどんどん大きくなり、入口目掛けて人が押し寄せていく。

 その波に揉まれて深月はよろけてしまうが、力強く暁が腕を掴んでくれた。

「落ち着け、私はここにいる」
「はい――」

 安心したときだった。

「おいで、キミを待っていたんだ」

 その囁き声は、深月に向けられる。

「朱凰さっ……」

 最悪の状況が背後に迫っていることを予感したとき、深月の首裏に冷たい手が下ろされた。