人の血を吸う種族の存在。
深月はこれまでの人生で耳に触れたことがない事実に戸惑いを覚えた。
「わ、たしが……その、稀血だと……そういう、ことですか。なにかの間違いでは」
口の中が乾いていく。
脳裏に浮かぶのは、狂気を纏った男の姿。
背筋が凍るほど恐怖し、正気を失った姿はまさしく化け物だと思った。
自身の体に巡る血の半分が、あの男と同じだと言われても些か信じがたい。
「……確証は」
無意識に身震いを起こした深月をどう思ったのか、暁から威圧感の薄れた声がこぼれる。
しかし、すぐにかき消された。
「いーや、あんたは稀血だ。その腕の傷口から採血して調べたんだ。今まで記録上のものだと思われていたけどな、あんたの血は文献に記された稀血の反応と一致したんだよ」
「不知火」
「なんだよ、こういうことは勿体ぶらないで説明するべきだろ。お前らしくもない」
不知火と呼ばれた白衣の青年は、物珍しげに暁を見遣る。
二人の会話を耳にする余裕はなく、深月は教えられた現実味のない話を頭で何度も反芻した。
(稀血、華月……)
やはり、そう簡単には受け入れられない。