稀血。
他人の血を飲み、狂気に歪んだ男も口にしていた言葉だ。
そして、深月を示すように「稀血の女」と言っていた。
拘束されている状況もそれに関連しているのでないか。
いや、寧ろそうとしか考えられない。
「あの人……旦那様の血を飲んだあの人も稀血と言っていました。私を稀血の女と。あなた方はそれをご存知なのですよね?」
手のひらをぎゅっと握りながら問えば、暁が一歩前に出て寝台にいる深月を見定めた。
「白々しい冗談に付き合う暇はなかったが……君は、本当になにも知らないということか?」
彼の瞳は、すべてを見透かすように真っ直ぐとこちらを向いている。
嘘は許さない、そう言われているようだった。
「私は、なにかを知っていなければならないのですか……?」
しばらく室内には静寂が包む。
長いようで、本当のところそれほど時間は経っていなかったのかもしれない。
「失礼する」
暁はさらに深月のそばに寄ると、自身の腰の刀をゆっくりと引き抜いた。
思わず身体を強ばらせる。
刀身があらわになると、深月はそれに釘付けになった。
「この都……いや、この世には二種の一族が存在する。ひとつは人族、人間だ。そして残るひとつが華月」
「華月……」
「血を吸い、血を糧に生きる種族の総称を華月という。君を襲ったあの男も、華月だ。そしてこの刀には華月であるかそうでないかを見極めるための仕掛けが備わっている」
暁の刀は、今も赤く淡い輝きが全体を纏っている。
しかし、何やらおかしい。
輝きはまばらであり、光が強くなっては消え、強くなっては消えを繰り返していた。
まるで切れかけの電球のように、チカチカと強弱がついている。
「華月であるものが刀の近くに現れた場合、刀身は強い光を纏う。だが、この光は半端だ。今まで見たことがない」
暁がなにを言いたいのか、深月はぼんやりとだが察し始めていた。
「そして稀血とは――人間と華月、両者の血を受け継ぎ生まれた者の差す言葉として使われる」
稀血の意味を知った時、深月の心の臓は強く鼓動を刻んだ。