三沢は自分の机のデスクトップで録画データをサーバーに順次とりこんだ。最も鮮明な画像はJRの改札近くだった。照明と画素が多い。
 容姿にも服装にも際立った特徴がないというのが、操子の特徴だった。犯人が尾行していたとしたら、彼女の背後に映っているはずだ。午後8時前の乗客は数珠つながりだ。7時30分から8時までに180センチ前後の男は数人いた。いずれも細身で、三十代はこえていない。凶器らしきものを隠し持っていそうな者も探したが、めぼしい画像はえられなかった。とりあえず、長身の数人の男の頭部の画像を拡大して、プリントアウトした。画像が荒い。
 帰宅準備をしながら、三沢がつぶやいた。
「女だったとしたら。尾行していなかったとしたら。身長がもっと低いとしたら。凶器を持っていなかったとしたら」
「思いこみは危険だが、あんまり手を広げても収拾がつかん。時間を食う。証拠が消える。記憶がとぎれる。どっかで仮説を立てて折り合いをつけなきゃ捜査はできん。先入観を持つなと言うバカなやつもいるが、先入観なしでどうやって捜査を始める。通り魔の線は、とりあえず、後回し」
と大田は目をしょぼつかせた。三沢はパソコンの電源をおとした。

 その翌朝、水曜日、大田は当直の警部補から遺族の遺体確認が深夜にあったと告げられた。三沢が再び、被害者の保護者に電話した。出ない。三沢は殺害された操子が通学していた大学に再度連絡した。紹介されたのは非常勤講師の平林だった。研究日だというので、池袋の喫茶店ピサロで待ち合わせた。早めに行ったが、平林はすでに来ていた。30代半ばに見えたが、丸顔の頭髪が薄い。挨拶もそこそこに三沢が着席するなり、質問した。
「操子さんの担任だと大学から紹介されましたが」
「キャリアデザインという訳の分からない演習を担当させられています」
「訳がわからないというと?」
と大田がアメリカンを注文しながらきいた。
「そんな演習、私自身、大学で受講したことも聞いたこともないんです」
「たしかに。わたしもそうです」
と三沢が同調した。
「クラス担任のようなもので、毎週ホームルームのようなことをやってます」
「操子さんはどんな学生でしたか?」
「開講してまだ1か月もないので、名前と顔すら一致しないような」
「でも、担任なんですよね」