「かも知れない。しかし、高橋はお前と同じ誤りを犯したかもしれない」
「わたしが何か間違いを言いましたか?」
「お前は、織田操子が死んでいると知っていれば、同一人物の美紗子の出品している商品に注文を出さないはずだから、アリバイになるといった」
「だって、死んだ人は商品を配送できないでしょ」
「だから、高橋は注文したことをアリバイにしようとしたんだ」
「注文したということは、織田操子の死亡を知らなかった。知らなかったということは、自分は殺害犯ではない、という論法ですか?」
「しかし、その論法は死亡した人間は商品を発送できない、だから死亡を知っていれば注文しないという行為が前提だ。実際は死亡を知っていても注文はできるから、その前提は成立しない。したがって、糸へんの美紗子の絵画を買い戻すという行為はアリバイにはならん」
「ところが、発送したというメッセージが届いた。このメッセージを書いたのは、たぶん操子の父親ですね」
「いいか、よく考えろ。高橋が織田操子の死亡を知っていたとしたら、絵画の買い戻し注文はしない。なぜなら、糸へんの美紗子と砂の美砂子と同一人物であることを知っているからだ。絵画の買い戻し注文をしたということは、織田操子の死亡を本当に知らなかったか、自分が殺害したかのどっちかだ。殺害したとすれば、買い戻したという行為をアリバイにしようとしたんだ」
 三沢は大田の言うことが良く理解できなかった。大田は三沢の目を見て言った。
「単なる偶然かもしれない。高橋は単に、織田操子の死後、絵画を買い戻す注文を出した。その行為をアリバイにしようとしたというのは、勘繰りかもしれない。もし、アリバイにしようとしたのであれば、自白したようなものだ。やらずもがな、ということだ」
 三沢は大田の話を聞きながら、スマホの画像データをパソコンに取り込んだ。
「高橋の画像を、月曜日の午後8時の蒲田駅の改札の画像と照合してみましょうか」
「玄関先の後姿の写真か?」
「顔は写せなかったんですが、後姿だけで照合してみます」