その日の夜、ベッドの中で目を閉じて眠ろうと試みるが、アプリのことが頭から離れない。
私は起き上がってカーテンをそっと開けた。カーテンの隙間から覗く月の光が気になるのだ。窓から夜の闇を見つめる。住宅街なので、外灯がなければほとんど真っ暗だ。それでも、月明かりのおかげで夜の闇に視界が埋もれそうなのをなんとか回避することができている。
今日、相談した穂花には悪いが、私には『SHOSHITSU』のアプリが夜の闇をほのかに照らす月明かりに見えた。
「ちょっとだけやってみようかな……」
私は枕元で充電していたスマホを手に取り、例のアプリを起動した。深夜2時32分。こんな時間に何をやっているのだろうとぼんやり考えもしたけれど、右手の指は止まらない。
もちろん、アプリの効果を信じたわけじゃない。
大体、効果が何かはっきりとは分かっていない。
だけど、消したいものが私にはある。
その人の名前を入力するだけで、心がほっとすればいい。それだけで、今日眠ることができるような気がした。
『あなたが消したいものを、入力してください』
真っ暗な画面に浮かび上がる一文が、目に飛び込んでくる。
私は、そっと親指で入力窓に彼女の名前を打つ。遠藤柚乃。私の高校生活をかき乱す張本人の名を。遠藤柚乃。あなたがいなければ、平凡な毎日が戻ってくるでしょう。
だから私はあなたの名前を入力します。
名前を入れると、「決定」というボタンが現れ、私は軽い気持ちでボタンを押した。
『了承しました。では、明日から“遠藤柚乃”が消えた世界をお楽しみください——』
こんなことでしか、私は“平凡な人間”に戻れない。
私は起き上がってカーテンをそっと開けた。カーテンの隙間から覗く月の光が気になるのだ。窓から夜の闇を見つめる。住宅街なので、外灯がなければほとんど真っ暗だ。それでも、月明かりのおかげで夜の闇に視界が埋もれそうなのをなんとか回避することができている。
今日、相談した穂花には悪いが、私には『SHOSHITSU』のアプリが夜の闇をほのかに照らす月明かりに見えた。
「ちょっとだけやってみようかな……」
私は枕元で充電していたスマホを手に取り、例のアプリを起動した。深夜2時32分。こんな時間に何をやっているのだろうとぼんやり考えもしたけれど、右手の指は止まらない。
もちろん、アプリの効果を信じたわけじゃない。
大体、効果が何かはっきりとは分かっていない。
だけど、消したいものが私にはある。
その人の名前を入力するだけで、心がほっとすればいい。それだけで、今日眠ることができるような気がした。
『あなたが消したいものを、入力してください』
真っ暗な画面に浮かび上がる一文が、目に飛び込んでくる。
私は、そっと親指で入力窓に彼女の名前を打つ。遠藤柚乃。私の高校生活をかき乱す張本人の名を。遠藤柚乃。あなたがいなければ、平凡な毎日が戻ってくるでしょう。
だから私はあなたの名前を入力します。
名前を入れると、「決定」というボタンが現れ、私は軽い気持ちでボタンを押した。
『了承しました。では、明日から“遠藤柚乃”が消えた世界をお楽しみください——』
こんなことでしか、私は“平凡な人間”に戻れない。