終着駅である駅前でバスを降りた空翔は、あいかわらず不機嫌そうな顔で自転車置き場のほうへ歩き出した。
 どうしようか、と一瞬迷ってから勇気を振り絞って追いながら声をかける。

「空翔、待って」

 一瞬ビクッと体を震わせてから、
「んだよ」
 と、うなるように空翔は言った。

「学校さぼってなにやってたわけ?」

 結局、あの日図書館に行ったあと学校には行かなかった。
 翌日からも、週の半分は図書館に通う生活が続いているし、今日だって同じ。
 あの本を最初のページから読んでいき、ノートにメモを取った。
 今のところ、奇跡について書かれている箇所は見つけられていないけれど。

「あのさ、少しだけ話せる?」
「別にいいけど」

 駐輪場の白壁にもたれた空翔に、すうと息を吸ってから頭を下げる。

「いろいろ、ごめんなさい」
「なにそれ。おい、やめろよ」

 自分のつま先を見つめたまま「ごめんさい」とくり返した。

「空翔は心配してくれてるのに、ひどいことを言ったから」
「別にいいって。てか、気持ち悪い」

「ひどい」と文句を言って顔をあげると、空翔は穏やかな目をしていた。

「まさか謝られるとは思わなかった。俺も、なんかわけのわかんないこと言っちゃったしさ。悪かった」

 そんなことないよ、と首を横に振った。
 私も壁を背に立った。
 ふたりして廊下に立たされているみたい。

「それを言うために、俺が帰るのを待ってたわけ? 雨、大丈夫だった?」

 空翔はやっぱりやさしい。
 曇り空は、今日何度目かの雨を落としそう。
 薄暗くなりゆく町に、わずかなビル照明がにじんでいる。

「平気。思ってたよりも早いバスで帰ってきてくれたし」

 そう言ったあと、大きく息を吐いた。

 ちゃんと言わなくちゃ……。

「空翔、前に言ったよね。『星弥のこと、なかったことにしてんのかよ』って」