「とてもよくお似合いですよ」
 思っていたこととは逆のことを言うセナに、ヤマトは「それはどうも」と気のない返事をする。
 しかし彼女はいくらか声のトーンを落とし、「うそじゃありませんよ? 正直村の住人は、けっしてうそをつきません」と言葉を付け足した。
 ……本当だろうか。

 ヤマトは旅人には必要不可欠な疑心を、いささか強く働かせていた。だから平和そのものといった面持ちの村人に、「旅人さんかい? ゆっくりしておいき」と声をかけられても、彼には「よそ者は早く出ていけ」と言われているように聞こえたし、セナに「ここは村一番の料理屋さんで、オムライスが絶品なんです。今はまだ朝なので、お店はやっていませんが」と紹介されても、ヤマトにはそこで昼食をとろうという気が微塵も起こらないのだった。
 第一、その店の外観は、どこからどう見ても民家そのものだ。
 ……しかし、かといって、ここがかの悪名高いうそつき村なのだろうか。いや、うそつき村の住人は、ただの一つも正直な言葉を口にしないと聞く。セナをはじめとしたこの村の住人たちの言葉が、全てうそだというのは無理がある。
 だからヤマトはまだ基本的には、この村が正直村であると信じていた。

「旅人さん、この村には宿屋というのはないですし、もしよろしければわたしの家に泊まりませんか? 母と二人暮らしで、お部屋は余っています。もちろんお代はいりません」
「でも、迷惑じゃないかな」
「正直に言うと、力仕事をいくつか、頼まれてほしいのです」
「なるほどね」
 ヤマトは納得し、セナの家に泊めてもらうことにする。少女の母親は現在病床に伏せっているという話で、二人が家に着くと、ちょうど医師がセナの母親の診察に来ているところだった。
「……おはようございます、先生。もういらしていたんですね?」
「ああ、セナちゃん、帰ったのかね。なに、今日はやけに馬が元気に走ったもんでね。いつもなら、馬車の中で一眠りするんだが」
「旅人さん、こちら、村に毎月回診に来てくださっている、ライラック先生です」
「旅人さんか。初めまして。王都から来た、ライラックだ。この村に回診に来るようになって、もう何年になるか……この村は薬草学に長けた者はいるんだが、医者というのがいなくてね」
 医師の言葉に、ヤマトは心の底から驚いた。