人間を食べるといっても、彼らは同じ集落の仲間は――それが自然死後の人間のものであっても――絶対に口にしなかった。身内同士の殺し合いに繋がることを、直感的に分かっていたのだろう。
 ではどの人間を食べるのかというと、空から降ってきた人間を食べていたのだ。つまり、黒頭白鷺の卵採りの最中に、絶壁から足を踏み外してしまった……正直村の人間を。
 医学者はそのことに気付き、彼らに訊ねた。『きみたちは人間を食べているのか』と。
 彼らは答えた――『いいや。人間を食べたりはしない』――とても真剣な顔で。
 彼らはうそをつかなければならなかったのだ。生きるために。

 医学者はその集落で彼らと共に暮らしながら、謎の風土病の解明に努めた。
 原因の見当をつけるのは簡単だった。人間を食べているのがいけなかったんだ。子供でも分かる。
 樹海には獣もいれば厄介なウイルスを媒介する虫の類も数多くいたが、それ自体は丘の上の正直村と大差はない環境だし、なのに丘の下にあるその集落の住人だけが病にかかるというのは変だ。
 もっとも、住人の栄養状態のほうは、黒頭白鷺の卵が採れる正直村の住人たちのほうが、いくらか良好だったがね。
 ともあれ、病の原因として一番可能性が高いのは、やはり人食いの習慣のほうだろう。なんせ、多くの人々が食べることのないものを、彼らは食べていたのだから、当たり前だ。うそつき村特有の風土病なら人食いに原因があるのではと考えるし、もし正直村特有の風土病があったとしたら、そのときは黒頭白鷺の卵が原因ではないかと疑うことになるだろう。
 医学者はうそつき村の住人に、奇病の原因は人食いにあるに違いないぞと教えてやった。実は彼らも、そのことには薄々気がついていたのだ。だから彼らの中には、人間を食べることに対して及び腰になっている者もいた。
 だがそれでも彼らにとっては貴重な栄養源だったから、人食いを完全に断つことはできなかったのだ。
 そういうわけで、謎の風土病は長いあいだうそつき村の住人たちを苦しめてきた。
 現地での研究――いや、『調査』と言うべきか――により、医学者は奇病の発生源が、人間の『脳』を食べたことによるものだと突き止めた。