意味を判じかねて問い返すヤマトに、女の番兵は煙草の先でライラック医師の傷口を指す。
「……なるほど」
 ヤマトは身を屈め、医師の腹に突き刺さっている血まみれのナイフを凝視する。その柄(え)の形に、見覚えがあった。
「確かに、これは僕のナイフみたいだ。でもおかしいな。このナイフは散歩には必要ないから、旅荷物と一緒にあの子の家に置いてきたはずなんだけれど」
「ついでに赤い麦わら帽も置いてきてしまったみたいね?」
 女の番兵はヤマトの頭上を見て当てこするように指摘する。
「ああ本当だ。あの大事な麦わら帽を忘れてきてしまったみたいだ」
 ヤマトは白々しく自分の頭に手をやりそう答えた。そんな彼の様子を、二人の番兵は黙って見つめ続けている。
「どうやら、あなた方の提案通りにしたほうがいいみたいですね。でもきっと、あの子の家に旅荷物を取りに行くくらいの時間は、いただけるんでしょうね?」
 ヤマトは冗談めかして言ってはみたものの、それが認められるか否かでは天と地ほどの差があった。路銀と最低限の武器としてのナイフは携えているものの、野営用のテントや食料、その他細々とした旅道具を置いて村を追い出されるということは、これは旅人としては実に、丸裸で旅をさせられるようなものだ。
 しかし二人の番兵の沈黙は、否定の言葉を口にするよりもむしろずっと如実に「ノー」であると答えていた。
「残念だ。本当に残念です。この村でロープを買っておきたかったんです。黒頭白鷺の卵を採るのに使っているロープ。きっと頑丈に違いありませんからね。旅の様々な場面で役に立つはずです。黒頭白鷺といえば、その卵を使ったオムライスもぜひ食べてみたかった。あの子……セナちゃんは、店を間違って僕に教えたんですよ。彼女が教えてくれた店は酒場だった。もちろんオムライスなんて出してない、ごく普通の酒場です。あるいはあの子は、うそをついたのかもしれない」
「……広場にある店のことだったら、あそこは昼は食堂で、夜は酒場なんだよ。だからあの子はあんたに間違えて教えてなんかいないし、ましてやうそをついたわけでもない。第一、あんたはここをどこだと思ってるんだ?」
「…………。正直村、みたいですね」
 もはやそれ以上の交渉は不可能だった。ヤマトは軽く両手を広げ、「やれやれ」と口に出して言った。