「……ま、俺たちはね、こいつはいずれこうなるんじゃないかって、そう思ってたんだよ。なんでって……こいつはどう考えても、うそつき村の住人だからさ」
 男の番兵は懐から煙草を取り出すとそれを一本口にくわえ、自身の衣服のどこかしらのポケットに入っているらしいマッチを探し身体中に手を当てる。しかしどうやら見つからないようで、男の番兵はまた舌打ちをして、くわえていた煙草を手に取りライラック医師の胸元へ放り捨てた。
「村の人間も、うすうす気付いてただろ。だけど実際問題、こいつは何人もの病人を救ってる。みんな、疑うことを知らねぇからさ。偉いとされてる奴に『じきに良くなる』って言われると、本当に病気が治っちまうんだよな。病は気からとは言うが」
「偽薬(ぎやく)効果、みたいなものですかね」
 男の番兵はその言葉を知らないようだったが、「だいたいそうだ」と同意した。
「俺たち番兵はこいつの存在に頭を悩ませていた。こいつは明らかにうそつき村の住人だが、おいそれと追い払うわけにもいかねぇ。信者がいっぱいいるからな。はっきり言って、俺ら番兵よりよっぽど村の奴らから好かれてる。それに、こいつがうそつき村の住人だとバレるのも困る。うそつき村の住人の侵入を、俺ら番兵がずっと許していたということになるからな。だから安易に手を出せなかった。……だがこれは良い機会だ。旅人さん、この事件を丸く収めるために、一つ頼まれごとをしてくれないか?」
「というと?」
 なんだか最近、頼まれごとばかりされているなと、ヤマトは思わず肩をすくめる。
「俺らは、今回の事件に関し、犯人をとがめる気はない。なにしろこいつはうそつき村のスパイだ。そうに違いない。それに、近々こいつがうそつき村の住人だと、村の奴らにバレてしまう……そんな気配があった。ライラック医師はうそつき村の住人なんじゃないかと、疑う奴が出てきたんだな」
「そうなんですか」