舞台裏の入り口。
お疲れさまです、と警備のひとが言った。
「おつかれさまですー」
「どうも、通らせてもらうわね」
瞳子さんと可憐さんは、軽く会釈なんかして平然と警備員さんの脇を通り過ぎていく――そうか。お疲れさまです、という警備のひとの言葉は、私たち三人に向けられていたのか。
舞台裏は慌ただしく動いている。行き交うひとたち、すべてが忙しそうだ。
私たちは、疑われずに舞台裏をどんどん進むことができた。
とはいえ……周りのひとにバレることはないと頭ではわかっていても、小心者の私はどうしてもおどおどしてしまう。
おふたりは、堂々としていてすごい。
舞台裏から奥に向かいながら、ふと思ったんですけど、と瞳子さんがいたずらを思いついた子どもみたいに言い出した。
「といいますか可憐さん、この薬があればアツシくんに近づくこともできるのでは? そばにいるのが自然な者として?」
「あ、貴女なに言ってるのよ。アツシくんに対して、認識を歪ませる薬を使うなんて、そんな……そんな……恐れ多いこと、できるわけないでしょう?」
「ふむ。私でしたら、あの手この手を使って推しに接近するのもありだと思ってしまいますけれどね」
……たしかにそうか、アツシくんに薬を使えば、たとえば、友人や……恋人みたいなポジションになれる?
すごい薬だ。
でも、たしかに……。
「私も、アツシくんにはこの薬は、使えないかもです……」
「でしょう? 彼女の言うことのほうが正しいわよ、貴女」
「そうですかねー」
瞳子さんは、子どもみたいに唇を尖らせていた。
それは、それとして。
どんどんまっすぐ進んでいって、すぐに舞台裏の――まさにステージの裏側に、たどり着いた。
眩しい舞台ではバラードが続いていて、アツシくんも感情を込めて熱唱している。
推しとこんなに至近距離にいるなんて……恐れ多い。
「おおおっ、感動です。アツシくんが、こんなに近くに……」
「世界の奇跡よ。こんなに近くで同じ空気を吸っているなんて」
「アツシくん……尊い……」
そばを通り過ぎていくスタッフさんが、怪訝そうな顔をする。私たち三人は、一斉にはっとした。
怪しまれないよう、関係者のひとたちが慌ただしく動く舞台裏の暗がりに寄る。
「……え、えっと、と、とりあえず、爆弾をどうにかしないと、ですよね」
「……そ、そうよね。それで爆弾はどこにあるの」
「えっと、年越しの瞬間にバァンとなるステージの真ん中……ただ、まだそれ以上のことは読み取れていないんですよね。ちょっと待ってください。読み取ります。えいやっ」
「……貴女、能力を使うときに、そんな掛け声かけていたかしら?」
「いえ。テレパシーに掛け声などは必要ありませんので。ですが、大事な大事なここ一番のときですので気合いを入れるため――あっ、ちょっと待ってくださいっ。犯人の思考に、つながりました。……聞き取りますので、すみませんが少し集中させてくださいね」
瞳子さんは、目を閉じる。
その顔は真剣そのものだ。
「……いや……違う……そんなことは、どうでもいい……あなたの恨みつらみとか、どうでもよくて。そうじゃなくて。爆弾の場所を……動機じゃなくて、爆弾の場所を考えろっ……!」
ステージではバラードが大サビに差しかかり、舞台上に物干し竿のようにかけられたクレーンのような形の装置からキラキラのテープが降ってくる。きゃああっと歓声が起こる。テープをゲットしようと、一万人ものファンがみんなぴょんぴょん跳ねて手を上に伸ばしている。
瞳子さんの顔色が変わった。
「わかりました! 舞台上の装置です――」
「犯人、爆弾のことを考えたのね?」
「はい。良いタイミングでした」
「……で、でも、舞台上の装置って」
私はおそるおそる、爆弾があるという場所を、見る――というより、見上げる。
「あんな、高くにあります……」
瞳子さんと可憐さんも、その場所を見上げる。
十メートル以上はありそうな、あんな高い場所に――爆弾が、仕掛けられているなんて。
お疲れさまです、と警備のひとが言った。
「おつかれさまですー」
「どうも、通らせてもらうわね」
瞳子さんと可憐さんは、軽く会釈なんかして平然と警備員さんの脇を通り過ぎていく――そうか。お疲れさまです、という警備のひとの言葉は、私たち三人に向けられていたのか。
舞台裏は慌ただしく動いている。行き交うひとたち、すべてが忙しそうだ。
私たちは、疑われずに舞台裏をどんどん進むことができた。
とはいえ……周りのひとにバレることはないと頭ではわかっていても、小心者の私はどうしてもおどおどしてしまう。
おふたりは、堂々としていてすごい。
舞台裏から奥に向かいながら、ふと思ったんですけど、と瞳子さんがいたずらを思いついた子どもみたいに言い出した。
「といいますか可憐さん、この薬があればアツシくんに近づくこともできるのでは? そばにいるのが自然な者として?」
「あ、貴女なに言ってるのよ。アツシくんに対して、認識を歪ませる薬を使うなんて、そんな……そんな……恐れ多いこと、できるわけないでしょう?」
「ふむ。私でしたら、あの手この手を使って推しに接近するのもありだと思ってしまいますけれどね」
……たしかにそうか、アツシくんに薬を使えば、たとえば、友人や……恋人みたいなポジションになれる?
すごい薬だ。
でも、たしかに……。
「私も、アツシくんにはこの薬は、使えないかもです……」
「でしょう? 彼女の言うことのほうが正しいわよ、貴女」
「そうですかねー」
瞳子さんは、子どもみたいに唇を尖らせていた。
それは、それとして。
どんどんまっすぐ進んでいって、すぐに舞台裏の――まさにステージの裏側に、たどり着いた。
眩しい舞台ではバラードが続いていて、アツシくんも感情を込めて熱唱している。
推しとこんなに至近距離にいるなんて……恐れ多い。
「おおおっ、感動です。アツシくんが、こんなに近くに……」
「世界の奇跡よ。こんなに近くで同じ空気を吸っているなんて」
「アツシくん……尊い……」
そばを通り過ぎていくスタッフさんが、怪訝そうな顔をする。私たち三人は、一斉にはっとした。
怪しまれないよう、関係者のひとたちが慌ただしく動く舞台裏の暗がりに寄る。
「……え、えっと、と、とりあえず、爆弾をどうにかしないと、ですよね」
「……そ、そうよね。それで爆弾はどこにあるの」
「えっと、年越しの瞬間にバァンとなるステージの真ん中……ただ、まだそれ以上のことは読み取れていないんですよね。ちょっと待ってください。読み取ります。えいやっ」
「……貴女、能力を使うときに、そんな掛け声かけていたかしら?」
「いえ。テレパシーに掛け声などは必要ありませんので。ですが、大事な大事なここ一番のときですので気合いを入れるため――あっ、ちょっと待ってくださいっ。犯人の思考に、つながりました。……聞き取りますので、すみませんが少し集中させてくださいね」
瞳子さんは、目を閉じる。
その顔は真剣そのものだ。
「……いや……違う……そんなことは、どうでもいい……あなたの恨みつらみとか、どうでもよくて。そうじゃなくて。爆弾の場所を……動機じゃなくて、爆弾の場所を考えろっ……!」
ステージではバラードが大サビに差しかかり、舞台上に物干し竿のようにかけられたクレーンのような形の装置からキラキラのテープが降ってくる。きゃああっと歓声が起こる。テープをゲットしようと、一万人ものファンがみんなぴょんぴょん跳ねて手を上に伸ばしている。
瞳子さんの顔色が変わった。
「わかりました! 舞台上の装置です――」
「犯人、爆弾のことを考えたのね?」
「はい。良いタイミングでした」
「……で、でも、舞台上の装置って」
私はおそるおそる、爆弾があるという場所を、見る――というより、見上げる。
「あんな、高くにあります……」
瞳子さんと可憐さんも、その場所を見上げる。
十メートル以上はありそうな、あんな高い場所に――爆弾が、仕掛けられているなんて。