私は、雪女。
現代日本で正体を隠して生きる、あやかしのひとり。
といっても……そんなに怖い存在ではない、と思う。
いちおう、ものを凍らせる能力が使えるけれど……もうしばらく、使っていない。
……だれかが凍えて傷つくのは、嫌だから。
ただ、実際、寒さには強い。
だから真冬の夜中でも、寒くはない。
みんなみたいに防寒すると、暑すぎるくらいで……。今日もせめてと長袖のカーディガンを着てきたのだけれど、やっぱり寒そうに見えるらしい。
「じゃあ、手短に自己紹介をします。私は、桐峯瞳子と申します。先程も申し上げた通り、超能力者ですが、テレパシー専門ですので他は期待しないでください。ビームを出したりオーラを放ったりは管轄外です。アツシくんがピンチだというのに攻撃系の能力がない自分に忸怩たる思いです。……あ、あと、みなさんの思考は適宜読ませていただくのでひとつよろしくお願いします」
「はた迷惑ね……」
ふむふむ、と言って瞳子さんは小刻みにうなずく。
「でも、まあ、建前を言わなくていいぶん話が早いか。実際、思考を読んでくるような魔獣とも私は多く戦ってきたし――と、思ってらっしゃいますね?」
「その通りよ。貴女の能力、本物ね」
ふふ、と瞳子さんは小さく笑った。
「けれど、私のテレパシーの力は、いつでも使えるわけじゃないんです。常にみなさんの思考が垂れ流しで入ってくるわけではなくて、たまに、チリッと読み取れる、というイメージでいてくれたほうがいいです」
「ふうん。そういうものなのね」
「そうなんです。テレパシーをするにもこう、純粋素粒子が必要で……って、いまは細かい話をしている余裕がないですね。とにかく、エネルギーが必要で、一回使ってしまうと少しのあいだエネルギーを溜めなければいけないんです。ちょっと不便ですが、人間の脳のバランスというのはそううまくできていません。仕方ありません。……とはいえ思考を読むときに予告してしまうわけにもいかないので。読むときには、唐突に読みますから。ひとつよろしく」
次は、魔女だという黒ずくめのひとが自己紹介する。
「火渡可憐よ。魔女……と自分で言うのは、違和感があるわね。ひとは私を魔女と呼ぶ。けれど、私は自身の宿命に従って生きているだけなの。私たちは大自然の精霊たちと関わりを持つだけ……たとえば、私は炎の精霊と呼応する。ただ、それだけよ。もう、厄介ごとからは手を引いたつもりだったのだけれど……仕方ないわね。アツシくんを守るためだもの」
「おお、これはこれは。心の声と言葉が一致してます!」
瞳子さんに妙に褒められ、可憐さんは髪をかき上げる。
超能力者に、魔女。
物語のなかだけの存在じゃ、なかったんだ。
ほんとに、いたんだ……。
……雪女の私が言えたことじゃないかもしれないけれど。
「それで、貴女。雪女、ということだけれど?」
「……あ、はい。えっと。天野まふゆ、といいます。大学生です」
「大学生。あら。若い」
瞳子さんは手で口を押さえる。
「いちおう、雪女、なんですが……」
私は、うつむく。
「おふたりみたいに、すごい力があるわけでもないです。ただ、ちょっとものを凍らせる程度で……」
「ものを凍らせられる? 貴女、それは本当であればとてつもなくすごいことよ。氷の精霊からとても愛されている証拠だわ」
「ですね、すごい、ほんとにすごいですよ。ものを凍らせるのにも純粋素粒子のバランスが必要なんです。よほどエナジーを操作できるかたではないと、そうはいきません……やはり妖怪というのは未知のエネルギーの可能性を秘めていますね。バランスを崩すゆえ異分子と認定されるのも、なるほどやむなきこと……」
「そ、その、ほんとにそんな、すごい雪女でも妖怪でもないんです、私は」
もっとすごい雪女なら、別なんだろうけれど。
私は、現代社会で人間に溶け込んで生きることを望み実際にそうしている――あんまり雪女らしくない、雪女なのだから。
「……まふゆさん。雪女なのに、溶け込んでいるんですね、雪なのに溶けちゃう……ふふっ」
「そこでツボるのね……」
可憐さんが呆れていた。
「あ、はい、ふふ、失礼しました……ふふふ。それで、話を戻しますがまふゆさん。自分はすごくないって、本心から思われているんでしょうけれど」
瞳子さんは、こちらをじっと見てきた。
見透かすような瞳で――実際に、私の思考を読んでいるのだろうか。
「私たちはこれから、爆発を阻止し、アツシくんとシャイニングのみんな、会場にいる一万人規模の人々を守るのですよ。……ただの人間には頼めないことです。人知を超えた力が存在するのだと、そこからして説明せねばいけないですし、ただの人間に頼むにはあまりに重大ですから」
「……そ、そんな。おふたりは、すごいのかもしれませんが……私は、ただの人間とほとんど同程度……といいますか、知力や判断力でいえば、私なんかまったく及ばないので……爆弾を仕掛けられたというのも、人間社会のことです。人間のひとたちの協力を仰ぐのも、その、悪くないんじゃないかと……」
そうだ。
ぴん、と思いついたことがあった。
映画やドラマで見たことがある。
なんで、いままで思いつかなかったんだろう!
「そもそも、そうですよ、爆発物処理班――警察のひとたちは、どうしているんですか?」
現代日本で正体を隠して生きる、あやかしのひとり。
といっても……そんなに怖い存在ではない、と思う。
いちおう、ものを凍らせる能力が使えるけれど……もうしばらく、使っていない。
……だれかが凍えて傷つくのは、嫌だから。
ただ、実際、寒さには強い。
だから真冬の夜中でも、寒くはない。
みんなみたいに防寒すると、暑すぎるくらいで……。今日もせめてと長袖のカーディガンを着てきたのだけれど、やっぱり寒そうに見えるらしい。
「じゃあ、手短に自己紹介をします。私は、桐峯瞳子と申します。先程も申し上げた通り、超能力者ですが、テレパシー専門ですので他は期待しないでください。ビームを出したりオーラを放ったりは管轄外です。アツシくんがピンチだというのに攻撃系の能力がない自分に忸怩たる思いです。……あ、あと、みなさんの思考は適宜読ませていただくのでひとつよろしくお願いします」
「はた迷惑ね……」
ふむふむ、と言って瞳子さんは小刻みにうなずく。
「でも、まあ、建前を言わなくていいぶん話が早いか。実際、思考を読んでくるような魔獣とも私は多く戦ってきたし――と、思ってらっしゃいますね?」
「その通りよ。貴女の能力、本物ね」
ふふ、と瞳子さんは小さく笑った。
「けれど、私のテレパシーの力は、いつでも使えるわけじゃないんです。常にみなさんの思考が垂れ流しで入ってくるわけではなくて、たまに、チリッと読み取れる、というイメージでいてくれたほうがいいです」
「ふうん。そういうものなのね」
「そうなんです。テレパシーをするにもこう、純粋素粒子が必要で……って、いまは細かい話をしている余裕がないですね。とにかく、エネルギーが必要で、一回使ってしまうと少しのあいだエネルギーを溜めなければいけないんです。ちょっと不便ですが、人間の脳のバランスというのはそううまくできていません。仕方ありません。……とはいえ思考を読むときに予告してしまうわけにもいかないので。読むときには、唐突に読みますから。ひとつよろしく」
次は、魔女だという黒ずくめのひとが自己紹介する。
「火渡可憐よ。魔女……と自分で言うのは、違和感があるわね。ひとは私を魔女と呼ぶ。けれど、私は自身の宿命に従って生きているだけなの。私たちは大自然の精霊たちと関わりを持つだけ……たとえば、私は炎の精霊と呼応する。ただ、それだけよ。もう、厄介ごとからは手を引いたつもりだったのだけれど……仕方ないわね。アツシくんを守るためだもの」
「おお、これはこれは。心の声と言葉が一致してます!」
瞳子さんに妙に褒められ、可憐さんは髪をかき上げる。
超能力者に、魔女。
物語のなかだけの存在じゃ、なかったんだ。
ほんとに、いたんだ……。
……雪女の私が言えたことじゃないかもしれないけれど。
「それで、貴女。雪女、ということだけれど?」
「……あ、はい。えっと。天野まふゆ、といいます。大学生です」
「大学生。あら。若い」
瞳子さんは手で口を押さえる。
「いちおう、雪女、なんですが……」
私は、うつむく。
「おふたりみたいに、すごい力があるわけでもないです。ただ、ちょっとものを凍らせる程度で……」
「ものを凍らせられる? 貴女、それは本当であればとてつもなくすごいことよ。氷の精霊からとても愛されている証拠だわ」
「ですね、すごい、ほんとにすごいですよ。ものを凍らせるのにも純粋素粒子のバランスが必要なんです。よほどエナジーを操作できるかたではないと、そうはいきません……やはり妖怪というのは未知のエネルギーの可能性を秘めていますね。バランスを崩すゆえ異分子と認定されるのも、なるほどやむなきこと……」
「そ、その、ほんとにそんな、すごい雪女でも妖怪でもないんです、私は」
もっとすごい雪女なら、別なんだろうけれど。
私は、現代社会で人間に溶け込んで生きることを望み実際にそうしている――あんまり雪女らしくない、雪女なのだから。
「……まふゆさん。雪女なのに、溶け込んでいるんですね、雪なのに溶けちゃう……ふふっ」
「そこでツボるのね……」
可憐さんが呆れていた。
「あ、はい、ふふ、失礼しました……ふふふ。それで、話を戻しますがまふゆさん。自分はすごくないって、本心から思われているんでしょうけれど」
瞳子さんは、こちらをじっと見てきた。
見透かすような瞳で――実際に、私の思考を読んでいるのだろうか。
「私たちはこれから、爆発を阻止し、アツシくんとシャイニングのみんな、会場にいる一万人規模の人々を守るのですよ。……ただの人間には頼めないことです。人知を超えた力が存在するのだと、そこからして説明せねばいけないですし、ただの人間に頼むにはあまりに重大ですから」
「……そ、そんな。おふたりは、すごいのかもしれませんが……私は、ただの人間とほとんど同程度……といいますか、知力や判断力でいえば、私なんかまったく及ばないので……爆弾を仕掛けられたというのも、人間社会のことです。人間のひとたちの協力を仰ぐのも、その、悪くないんじゃないかと……」
そうだ。
ぴん、と思いついたことがあった。
映画やドラマで見たことがある。
なんで、いままで思いつかなかったんだろう!
「そもそも、そうですよ、爆発物処理班――警察のひとたちは、どうしているんですか?」