「いいですよ、もちろん! と、言いたいところなんですが! 可憐さん、まふゆさんがいっしょにサイリウムを振って、炎と氷のバランスに影響はありませんか?」
「むしろ良い影響があるかもしれないわね――それって、私と呼応している炎の精霊と、まふゆと呼応している氷の精霊が、心をひとつにするということだから!」
「だ、そうなので、ぜんぜん問題なさそうですので!」
「いっしょに振りましょう、サイリウム!」
「ありがとうございますっ――!」

 頬が自然とほころんで、私は――サイリウムを手にして、振り出した!
 おふたりのような洗練された動きはできない。でも……愛を込めて。アツシくんへの、愛を込めて! これまで自分でサイリウムを振れたことは、なかったけれど――振り付けであれば、ずっとずっと、覚えてきたんだ! 自分の空想のなかでは――熱く熱く、振り続けてきたんだ!

「アツシくん! アツシくん! アツシくん!」
「アツシ、アツシ、アツシ……!」
「アツシくん……! アツシくん、アツシくん!」

 私たち三人はサイリウムを振り続ける。
 推しへの熱い、熱い想いを込めながら――!

 関係者のひとが話しかけてくる。

「あなたたち、何してるんですか?」
「これが仕事です!」

 私は答えた。ハキハキとした声が出て、自分でもびっくりした。

「そう……盛り上げる係ですかね。そういう担当のひともいるんですねえ。……ああ、私も持ち場に行かないと!」

 関係者のひとは、あっさりと納得して引いてくれる。
 みんな、自分の仕事で忙しそうで……私たちが不審に思われていることはなさそうだ。認識を歪ませる薬。ずっと効いていてくれて、よかった……!

「暖房、どう? 壊れてない?」
「それが、凍りついちゃってて……」
「今日、もともとそんな寒くなかったのにね」
「やっぱり、故障じゃないですかね」

 やがて、話題が移り変わる。

「……おーい。だれか、あんな派手な演出、手配したのか?」
「えー、きれい。でもめっちゃ予算かかったんじゃないですか?」
「でも、ほんと、きれいですね……夢みたいで」

 ……雪が。
 私の呼んだ吹雪が、炎の力と中和されて――雪が、降っていた。
 雪の量は多いのだけれど、会場に舞い落ちていって人々に触れようとした瞬間、炎の働きでするりと透き通るみたいに溶ける。

 雪の大きなひと粒ひと粒が。
 虹色のプリズムひとつひとつといっしょに、きらきらとした光となって、ライブ会場に降りかかる――。

 それは、自分でもびっくりするほど、圧倒的に、幻想的な景色だった。

「……ふふ。会場にいるみんな、急に雪が降ってきたことに驚きながらも、すごいきれい、って思ってますよ。これはSNSのトレンド、シャイニングのライブ、美しい雪景色に、で決まりですかね」
「ほんとうに、美しいわね……」

 雪は、降り続けて。
 ステージでは推しが歌い続けて……会場ではみんながサイリウムを振り続けて……。

 私は、吹雪を出し続けて。
 みんなの熱のおかげで、みんなが凍ることはなく、爆弾だけが静かに――。