ここまで。自信たっぷりで。どうにかなる、と突き進んできたような、おふたりが――はじめて、なすすべもなく、黙り込んでいる。
「……そんな……」
私も、うなだれる。
バラードが終わったステージ上では、歓喜の熱気の渦のなか、シャイニングひとりひとりが挨拶をしている。もちろん、アツシくんも。
「もうすぐ、今年も終わるね。みんなに支えられた、この一年。ほんとうに、ほんとうに最高の年でした。ありがとう――みんなと年越しを迎えられるのが、俺はなにより、嬉しいです」
ああ。アツシくんの声。顔を見なくても、わかる。はにかんでいて、それに、普段はタメ口ばかりの彼が敬語を使うなんて、もう、感極まっているときだけなんだから。
ステージ裏では、関係者のひとたちが、もう一息だね、次でラストだ、頑張ろうって言い合っている。ばたばたで慌ただしいけれど、文化祭のクライマックスのような、おなじ困難を乗り越えた者同士だからこそ芽生える親密さが、満ちている。
一万人ものファンのみんなは思い思いに歓声を上げている。推しの名前を呼び感動を伝える言葉は、ひとりひとり形は違っても、どれも感動と応援の気持ちがいっぱいで、胸に伝わってきて。
そしてこのライブの主役、シャイニングのみんなと、もちろんアツシくんは――ここにいるみんなの力で、きらきら、きらきら輝いていた。
ここにいるみんなの気持ちは、熱をもって、一体になっていた。
……ううん。正確には、爆弾を仕掛けた犯人と、絶望しかけている私たち三人を除いて――。
私は、ぐっと拳を握って。……目を閉じて、ほんとうの意味で、あの子にさようならを告げた。ごめんねと、ありがとうの言葉もいっしょに。
思い浮かべた、あの子の顔は――二度と友達になんかなれない私を責める顔ではなくて、親しくしていたころの、……とっても眩しい、可愛らしい笑顔だった。
背筋を伸ばし、目を開けて、私は口を開く。
「……私。やります」
「やる、って言っても……私にはもう、なすすべが見つかりませんよ、まふゆさん……いまから一万人のひとを避難させるのも、犯人に気づかれずに爆弾を処理するのも、……できません、とても時間が足りません……」
「……ここまでだったのよ。アツシくんと、私たちの宿命は……。こうなってしまったら、まふゆ、すべてを凍らせてしまってちょうだい……アツシくんが爆弾で吹き飛ばされるなんて……耐えられないわよ。そして、せめて私は、アツシくんと、と、ともに、……いえ、恐れ多いわね」
「いいですよ。可憐さん。最後なんですから。言っちゃいましょう」
「――アツシくんと、と、と、ともに、散りたいわ」
「――うううっ。こんな形でアツシくんと運命共同体になるなんて」
「瞳子さんっ。可憐さんっ」
いままでの人生で、いちばん、大きな声が出たかもしれない。
「無理なことなんて、なにもないって、私たちの推しが教えてくれたじゃないですか。アツシくんが、教えてくれたじゃないですかっ! アツシくんたちはいま、最高の時間を迎えています。みんな、熱のこもった応援をしているんです。諦めるなんて、私は、したくないです!」
「――まふゆ。いま貴女、なんて言った?」
「え、えっ?」
急に可憐さんの瞳にぎらりと輝きが戻って、かえって私はたじろいでしまう。
「え、えっと……無理なことなんて、なにもないってアツシくんが教えてくれたから。アツシくんたちはいま、最高の時間を迎えていて、みんな熱のこもった応援をしているから――」
「それよっ」
可憐さんが急に、私のさきほどの大声にも負けない大声を出した。
瞳子さんが訝しげに可憐さんを見る。
「……なんですかもう、可憐さん、急に。せっかく推しと散るときの辞世の句を考えていたのに――」
「熱よ、熱――ああっ、どうして気づかなかったのかしら。いま、この場は、熱をもつ――炎の精霊たちに、こんなにも愛されているというのに!」
「どういうことですか……って、あああ!」
瞳子さんも、ぴんと思い当たったような顔をした。
「なるほど、可憐さんの思考を読んで理解しました。なるほどその手がありましたね――属性の相性どうしを掛け合わせれば、あるいは――!」
「そうよ、つまり、まふゆが氷の精霊に愛されすぎてしまっているのならば、炎の精霊の力を借りて対抗すればいいということよ」
「しかもそうすれば、炎属性の能力のほうだけをコントロールすれば、どうにかなるかもしれませんね……!」
「え、え、えっと……?」
急にテンションがぶち上がったおふたりに、私だけがついていけない。
可憐さんは、ちっちっち、と言ってひとさし指を振る。
「だーかーらー。まふゆが、いくらこの場すべてを凍らせたくても、炎の精霊の力を借りてそうさせないということ!」
「可憐さん、なんですかその、指を振るやつとだーかーらってやつ……魔女っ子さんの名残りですか? ええとですねまふゆさん、時間もないので簡潔に説明するとですね。私と可憐さんが、可憐さんの魔女の能力を借りて、会場を熱くします。その熱で、まふゆさんの氷の力を中和させます!」
「えええっ……」
さきほどとは、打って変わって。
瞳子さんはガッツポーズをして、可憐さんは髪を掻き上げている。おふたりとも、自信たっぷりだけれども、……ほんとうにできるのだろうか、そんなことが?
諦めたくないと言ったのは――私なんだけども!
「……そんな……」
私も、うなだれる。
バラードが終わったステージ上では、歓喜の熱気の渦のなか、シャイニングひとりひとりが挨拶をしている。もちろん、アツシくんも。
「もうすぐ、今年も終わるね。みんなに支えられた、この一年。ほんとうに、ほんとうに最高の年でした。ありがとう――みんなと年越しを迎えられるのが、俺はなにより、嬉しいです」
ああ。アツシくんの声。顔を見なくても、わかる。はにかんでいて、それに、普段はタメ口ばかりの彼が敬語を使うなんて、もう、感極まっているときだけなんだから。
ステージ裏では、関係者のひとたちが、もう一息だね、次でラストだ、頑張ろうって言い合っている。ばたばたで慌ただしいけれど、文化祭のクライマックスのような、おなじ困難を乗り越えた者同士だからこそ芽生える親密さが、満ちている。
一万人ものファンのみんなは思い思いに歓声を上げている。推しの名前を呼び感動を伝える言葉は、ひとりひとり形は違っても、どれも感動と応援の気持ちがいっぱいで、胸に伝わってきて。
そしてこのライブの主役、シャイニングのみんなと、もちろんアツシくんは――ここにいるみんなの力で、きらきら、きらきら輝いていた。
ここにいるみんなの気持ちは、熱をもって、一体になっていた。
……ううん。正確には、爆弾を仕掛けた犯人と、絶望しかけている私たち三人を除いて――。
私は、ぐっと拳を握って。……目を閉じて、ほんとうの意味で、あの子にさようならを告げた。ごめんねと、ありがとうの言葉もいっしょに。
思い浮かべた、あの子の顔は――二度と友達になんかなれない私を責める顔ではなくて、親しくしていたころの、……とっても眩しい、可愛らしい笑顔だった。
背筋を伸ばし、目を開けて、私は口を開く。
「……私。やります」
「やる、って言っても……私にはもう、なすすべが見つかりませんよ、まふゆさん……いまから一万人のひとを避難させるのも、犯人に気づかれずに爆弾を処理するのも、……できません、とても時間が足りません……」
「……ここまでだったのよ。アツシくんと、私たちの宿命は……。こうなってしまったら、まふゆ、すべてを凍らせてしまってちょうだい……アツシくんが爆弾で吹き飛ばされるなんて……耐えられないわよ。そして、せめて私は、アツシくんと、と、ともに、……いえ、恐れ多いわね」
「いいですよ。可憐さん。最後なんですから。言っちゃいましょう」
「――アツシくんと、と、と、ともに、散りたいわ」
「――うううっ。こんな形でアツシくんと運命共同体になるなんて」
「瞳子さんっ。可憐さんっ」
いままでの人生で、いちばん、大きな声が出たかもしれない。
「無理なことなんて、なにもないって、私たちの推しが教えてくれたじゃないですか。アツシくんが、教えてくれたじゃないですかっ! アツシくんたちはいま、最高の時間を迎えています。みんな、熱のこもった応援をしているんです。諦めるなんて、私は、したくないです!」
「――まふゆ。いま貴女、なんて言った?」
「え、えっ?」
急に可憐さんの瞳にぎらりと輝きが戻って、かえって私はたじろいでしまう。
「え、えっと……無理なことなんて、なにもないってアツシくんが教えてくれたから。アツシくんたちはいま、最高の時間を迎えていて、みんな熱のこもった応援をしているから――」
「それよっ」
可憐さんが急に、私のさきほどの大声にも負けない大声を出した。
瞳子さんが訝しげに可憐さんを見る。
「……なんですかもう、可憐さん、急に。せっかく推しと散るときの辞世の句を考えていたのに――」
「熱よ、熱――ああっ、どうして気づかなかったのかしら。いま、この場は、熱をもつ――炎の精霊たちに、こんなにも愛されているというのに!」
「どういうことですか……って、あああ!」
瞳子さんも、ぴんと思い当たったような顔をした。
「なるほど、可憐さんの思考を読んで理解しました。なるほどその手がありましたね――属性の相性どうしを掛け合わせれば、あるいは――!」
「そうよ、つまり、まふゆが氷の精霊に愛されすぎてしまっているのならば、炎の精霊の力を借りて対抗すればいいということよ」
「しかもそうすれば、炎属性の能力のほうだけをコントロールすれば、どうにかなるかもしれませんね……!」
「え、え、えっと……?」
急にテンションがぶち上がったおふたりに、私だけがついていけない。
可憐さんは、ちっちっち、と言ってひとさし指を振る。
「だーかーらー。まふゆが、いくらこの場すべてを凍らせたくても、炎の精霊の力を借りてそうさせないということ!」
「可憐さん、なんですかその、指を振るやつとだーかーらってやつ……魔女っ子さんの名残りですか? ええとですねまふゆさん、時間もないので簡潔に説明するとですね。私と可憐さんが、可憐さんの魔女の能力を借りて、会場を熱くします。その熱で、まふゆさんの氷の力を中和させます!」
「えええっ……」
さきほどとは、打って変わって。
瞳子さんはガッツポーズをして、可憐さんは髪を掻き上げている。おふたりとも、自信たっぷりだけれども、……ほんとうにできるのだろうか、そんなことが?
諦めたくないと言ったのは――私なんだけども!