「いや、抱きつかないで! アデルやめろ、本気で抱きつかれたら骨が粉砕されちゃうっ!」

「はっ!? も、申し訳ございません……はしたない真似を!」

 焚き火に照らされていた名残なのか、アデルの乳白色の肌がぽっと赤らんだ。

 リィトの小屋に来たがるアデルを客間に押し入れて、リィトはやっと自分の小屋に帰っていく。

「さて、僕も寝るか」

 焼きすぎたチキンが余っているようだ。

 明日も同じ味のものを食べるのは、すこし味気ない気がするけれど、帝国の塩辛い加工肉よりはマシだ。

***


 翌日からの三日間、アデルはトーゲン村で汗を流した。

 早朝から畑仕事。

 午後からは東の山で薪の調達。

 期待通り、アデルの怪力はトーゲン村の役に立っている。

 アデル自身も、山歩きや農作業を楽しんでいるみたいだ。

 しかし、だ。

 アデルの、パワー以外の新たな能力が判明したのは、リィトにとって意外なことだった。

「チキンスープ旨いな……」

 バーベキューで余った鶏肉でアデルがささっと作ってくれたチキンスープは、濃厚な鶏出汁が嬉しい。

「こっちの鶏ハムっぽいのも絶妙」

 まだ調理していなかった鶏肉も、アデルの手によって調理された。

 むね肉を芋のデンプンをつかってつるりと仕上げ、ハーブと塩で味付けをした鶏肉。コンビニで売っていたサラダチキンみたいな味だ。

「帝国のお姫様が、料理上手いなんてな……」

「訂正。アデリアの調理能力は、どうやら鶏肉のみに特化しているようです。野菜やその他の肉については、一般的な調理レベルの域を出ていないかと」

「でも、チキンは絶品だ」

 いい歳をして、昼食前につまみ食いをしたくなってしまうくらいには旨い。

 意外な才能だ。

 アデル曰く、
『チキンを食べると、筋肉の調子がいい』

 ということで、それを発見してからずっと食べ続けていたのだとか。

 栄養学を自ら切り開いたということか。

「うーん、ずっと一緒にいたけど……ここまでとは」

 鍛錬マニアなところはあるな、とは思っていた。

 しかし、口にするものまでこだわっていたなんて──アデルのことを『筋肉皇女』と揶揄している連中のうち、ここまで頭を使って鍛錬をしている人間がいるだろうか。

「……アデルに料理を教わりたい」