彼女の圧倒的なパワーを揶揄することなく認めていたのは、リィトだけだった。それでも、鍛えるのをやめないアデルのことを、リィトは密かに尊敬している。

 少々、人の話を聞かないのが玉に瑕だけれど。

「しかし、この木があるのは助かるね」

 たしかに、この木を切り崩すだけでもしばらくは危険を冒して東の山に薪拾いに行かなくてもよさそうだ。


 ***


 夕焼け空に藍色が混じり、一番星が光るころにやっと始まったバーベキューは、普段よりは穏やかに盛り上がった。

 塩焼きのチキンは皮目が香ばしく、芋と一緒に食べると脂が甘く蕩ける。

 リーズナブルな肉だけれど、チキンにしかない味わいがある。

「ん~~みゃい!」

「ニャ!」

 猫人族コンビは完全にご機嫌で、この芋の食べ方をトーゲン村特産のほくほく芋といっしょに売りだそうと楽しい計画を立てている。

 いいぞ、とリィトは思った。

 ギルド自治区に、リィト好みのグルメが流行すれば、リィトの目指す「おいしいごはん」をいつでも食べられるようになる。

 乏しい調理スキルを伸ばすよりも、外食が充実するように立ち回るのが得策なような気がしているリィトである。

「しかし、この木はよく燃えるなぁ」

「同意です、マスター。よき資源になると分析します」

 ナビが頷いた。人工精霊(タルパ)は食事は必要としないけれど、こうして焚き火を囲むのを気に入っているらしい。

 特に、アデルが見つけてきてくれた木材は、かなり燃焼効率がいい。

 花人族はもともと火をあまり使わないが、リィトはそうはいかない。火魔導を使えないリィトは、炊事洗濯入浴、すべてに薪が必要だ。

 この大きさの木は、花人族だけでは運べないし。

(ふむ、東の山の整備っていう意味でも、立ち枯れした木を取り除くのは悪くないなぁ……)

 改めて、アデルに向き直る。

「よかったら、こういう木を集めるの手伝ってくれないかな」

「えっ」

「まだ初夏だけど、冬に薪が尽きるのは死活問題だからね」

 本当であれば、リィトは薪くらいならいくらでもベンリ草で生成できる。効率はよくないやりかたではあるが。

 ただ、それを差し置いても、アデルにお願いしたかった。

「帝都にすぐに戻らなくちゃいけないなら、話は別だけど」

「いえ、そういうわけでは──」