たしかに、アデルの異常ともいえる腕力は、目の前で見せつけられると惚れ惚れしてしまう。

 倒れてきた大木を、可憐な姫君がその腕ひとつで受け止める──身体強化の魔導かと思うけれど、そうではない。鍛え上げてきた彼女の肉体が可能にする芸当である。

 それを、筋肉皇女だのと馬鹿にする連中は、わかっていない。

 ──これほどまでの力を手に入れるのに、彼女がしてきた研鑽の量を。

「……トーゲン村の住民を守ってくれて、ありがとう。アデル」

「い、いえ! 騎士として当然のことをしたまでです」

 耳を赤くして照れるアデルが、もごもごと続ける。

「薪割りの手間はありますが、村にこうした資源があったほうがいいのではと」

「そ、それにしても多くない?」

「リィト様がいらっしゃってから、薪はいくらあったも足りないくらいだ、とフラウさんがおっしゃっていましたので」

「……まぁ、そうだね」

 リィトは、アデルがどすんと地面に置いた枯れ木を分析する。

 幹はともかく、枝は完全に乾ききっている。薪割り用の斧では落とすのが難しそうな太い枝だけれど、ミーアからのこぎりを買い付ければ切り落とせそうだ。

「……フンッ!」

「あっ」

 ベキョ、という軽い音とともにアデル太い枝をへし折った。

 アデルは手慰みに、大男の胴くらいにある太い枝を弄ぶ。

「しかし、なんですね……リィト様」

 メキッ!

「無心で薪を拾う時間、今までにない経験でした」

 バキッ、

「農作業をする花人族のみなさんのことも、遠目で拝見しまして、」

 メキョッ、

「その……わたくしも、お手伝いをさせていただけないかと」

 べキベキッ!

「……そう思うのですが、いかがでしょう」

「う、うん。いいと思うよ」

「本当ですか! ありがとうございます、リィト様!」

 メキメキメキィ!

 太い枝はいい感じの薪になっていた。

「……。あの、アデル」

「はいっ!」

「薪割りもありがとうね」

「え? いえ、その……ダメでした?」

「いや、とても助かったよ。素手でいくとは相変わらずだね」

「はいっ! 戦後も研鑽は欠かしていません!」

 輝く笑顔のアデル。