「問題ないわ、フラウ。携行食をいただいたばかりだから。それに、言っては悪いけれど、わたくしの口は肥えていますわよ? 帝都の食事より、そのバーベキューとやらは美味しいのかしら?」

「……ま、それは見てなよ。アデル」

 塩辛い加工肉と、味気ない芋が主食の帝国とはわけのちがう、新鮮で絶妙な塩気の美味しい料理を味合わせてあげよう──とリィトは思った。

「リィト様、とにかく帝都に帰ってください。この土地は誰か領事を派遣して治めさせればよいではありませんか。自治区内とはいえ、リィト様が買い上げた土地なのでしょう?」

「そうだけど、それじゃ意味ないんだよ」

「はい……?」

「モンスターたちは討伐が進んでいるし、モンスターの発生源だった大迷宮も封印できた。僕はもう帝国にいる必要はないだろ」

「ですが、こんな田舎にいる意味などないのでは」

「意味がないからいいんだよ」

「……さきほどから、おかしな問答を」

 ぷぅ、と頬を膨らませるアデル。

 帝都では決して見せない、幼さの残る仕草だ。

 リィトの前だからこそ、ほろりと綻び出た素の姿。

「……いつも、何か意味をあることをしないといけないわけじゃないですよ。アデリア殿下」

「…………リィト様」

 アデルはリィトを上目遣いで睨む。

 深い諦めと疲労が滲んだような、まるで老婆のような声。

 ギルド自治区にやってきてからは、生き生きと働く人々ばかりとつるんでいたリィトが、すっかり忘れていた皇女殿下の秘密の顔。

「意味のあることをし続けないと、皇女は騎士ではいられないわ」

「……ほら、行こう。アデル」

「どこへよ」

「畑と山」

***


 トーゲン村は素晴らしく晴れていて、バーベキューパーティーに向けてみんながせっせと働いている。

 猫人族二人はすでにマタタビ酒でご機嫌になって、花人族たちが作業の合間にエノコロ草で二人をじゃらして遊ぶのにうってつけの状況。

 リィトがアデルをつれて畑に行くと、ナビがいくつかのモニターを空中に表示させた。

 近未来的なビジュアルだが、この世界風に言えば人工精霊(タルパ)による精霊術だ。

「ナビは相変わらず有能ね」