「ギルド自治区ガルトランドは帝都と違い、雑多で統一感のない街でしたから少々苦労しました。ですが、情報ギルドでリィト様のことを訊ねてみたところ、あちらの猫人族が教えてくれたのです」

「えっ」

 あちらの、というアデルの指はどう見てもマンマに向いている。

「……マンマ、あれほどこの場所と僕のことはナイショだって!」

「ふにゃ、誤解なのですにゃ~……その帝国人さんが、『答えるまでは離しません!』ってわがはいをいじめたのですにゃ」

「……アデル」

「いじめなんて、誤解です。わたくしはただ、リィト様のことを伺おうと!」

「……はいはい」

「リィト様!? なんですか、その冷淡な態度は!」

「いや、久しぶりに会って思いだしたけど……アデルはこう、まっすぐすぎるときがあるよね」

「ありがとうございます、強く正しく逞しく! それがロマンシア皇帝家の掟ですので!」

「相変わらず、どこまでもストロング!」

 さすがは、百年にわたるモンスターとの攻防を繰り広げてきた皇帝家である。リィトの知る限り、皇女であるアデルが、もっともその家訓を体現しているような気がするが。

「リィト様! どうぞ帝国へお戻りください。リィト様の才能を失うなど、帝国歴百年を失うに等しい損害です!」

「買いかぶりすぎさ。他の人はそう思わないから、僕を追い出したんだろ」

「宮廷魔導師どもが無能なのです!」

「皇帝陛下も、特に引き留めはしなかったけれど」

「……それは、その……たぶん、わたくしのせいかと」

 アデルが珍しく、歯切れの悪い尻すぼみになった。

「え?」

「な、なんでもありません!」

「あ、そう……?」

 アデルは俯いて、大きく深呼吸をした。

 アデルに持ち上がっている婚約話とリィトへの理不尽な仕打ちが見逃されたことは、おそらく無関係ではない。

 魔導師リィトのことを、アデリア第六皇女が慕っているのは誰から見ても明らかで。

 もし、リィト本人が「英雄でーす!」というのを胸を張って言いふらすタイプであれば、継承権の低い皇女に箔が付き、皇帝家の威光を高めることになると、アデルの淡い気持ちは喜ばれたかもしれない。

 いかんせん、リィトは無欲だった。

 なるべく目立たず、普通に過ごしたい──植物魔導の研究ができれば、幸せ──そんな性質の魔導師と皇女は釣り合わないのだ。