「あ、アデル殿下!?」

 第六皇女、アデリア・ル・ロマンシアだった。

 対魔戦争中に、「名誉団長」でありながら自らモンスター討伐と地下迷宮(ダンジョン)戦役の最前線へと突っ込んでいった女傑だ。

 ロマンシア帝国の価値観としては、「ありえない娘」なのだけれど、リィトとしては歓迎だった。

 それはアデルが、他の冒険者や騎士よりもよっぽど個人としての戦闘力に優れていたからだ。

 ようするに、リィトはアデルのことを認めているのだ。

 アデルもそれと同様にリィトのことを尊敬している。

 いや、尊敬しすぎている。

 終戦後も、あれこれと便宜を図ってくれたことについて、リィトは深く感謝しているのだけれど──。

「ああ、リィト様! こんなド田舎にいらっしゃるなんて……参りましょう、帝都に戻り、リィト様に仇を為したものどもを、共にブチのめしましょう。このアデル、全力でリィト様をお支えいたします!」

 竜車から飛び降りるなり、固く握った拳を振り回して演説を始めたアデルに、フラウやミーアがあっけにとられている。

 マンマだけは、メモにペンを走らせているのだから立派な記者魂だ。

 リィトは、急な来客に思わずしろどもどろ。

「え、あの、違うんだよアデル殿下?」

「殿下などと! どうぞ、わたくしのことはアデルと! いつものようにアデルとっ!」

「あー……アデル、心配はありがたいけど、僕は帝都にはもどらないよ」

「なぜですか、あの貧弱な宮廷魔導師どもでしたら、わたくしがぶん殴ってさしあげますので……力こそ暴力です!」

「哲学的っぽくて全然暴力的な発言はやめてください、アデル殿下!」

「アデルと!」

「アデルッ! ……あー、その、なんだ。ここにいるのは僕の意思なんだけど」

 リィトの言葉に、アデルは凍り付いた。

「…………はい?」

「いや、だから。追放されたっていっても、僕としてはラッキーというか……もう帝都で悪目立ちするのはコリゴリっていうか」

「なっなっ」

「こないだの戦争のときも、名前と顔を出さないでやってただろ」

「あ、あれはリィト様が謙虚すぎるのです!」

「いや……のんびり平凡に暮らしたかったからなんだけど」

「リィト様が平凡だったら、この世は一騎当千のもののふばかりですわ!」

 わなわな震えるアデル。