今度、彼女の家族を新鮮な肉を焼くバーベキューに招待しようと思っている。

「今のところ、妙な人がトーゲン村に来たこともないし……いいかんじだね」

 誰にも何にもわずらわされない、誰もリィトのことを知らない生活。

 現状、いいかんじの余生を送れている。

 関わる人間を極力少なくすることで、トーゲン村の所在地やリィトの存在を隠しているというわけだ。

「そういう意味だと、マンマもやり手だよなぁ」

 トーゲン村の商品情報や、花人族の秘境であることなどを面白おかしく小売りにして売っている。

 肝心なところをぼかしたり、はぐらかしたり、意図的にフェイクを入れたりして、トーゲン村の秘密を守ってくれているらしい。

「おかげで、村は今日も平穏だ」

 マンマにはゴシップギルドからの引き抜き(ヘッドハンティング)も来ているそうだ。

 近頃は、花人族のための家を畑の近くの平地部分に作っている。

 東の山に住んでいた彼らだが、フラウいわく本来は山に住むような種族ではないそうだ。

 平地部分がカラカラに乾燥してしまったことで、数世代前から東の山に隠れるようにして移り住んだとか。もう遠い伝承になってしまっているが、トーゲン村のずっと南に広がる深い森の向こうにも移住していった花人族がいるとか。

 平地に移り住むときには、リィトのベンリ草で家を作ってやった。あまり建物に詳しくないため、リィトの小屋を一回り小さくした感じの同じような小屋がいくつも並んでいる集落になってしまった。金太郎飴みたいに並ぶ、新興住宅地の建売住宅みたいだな……とリィトは思った。

 数週間経つ頃には、花人族たちはお気に入りの植物を屋根や壁で栽培して、かなり個性的になったので、一応は結果オーライというところだろうか。

 窓際で日の光を浴びて輝く、謎の芽Xを眺めながらリィトは充実感にひたった。

「いやぁ、本当に平和だな──」

 しかし、平和というのは脆いもの。

 フゥァン、という音とともにナビが緊急顕現した。

「報告。マスター、侵入者です」

「へ?」

「ですから、侵入者です」

 侵入者。

 そんな物騒な響き、こないだの戦争以来だ。

***


 豪華な竜車。

 ロマンシア皇帝家の紋章付き。

 しかし、その御者台に座っているのは御者ではない。

「リィト様!」