山には栄養が眠っている。長い年月を重ねた土──要するに腐葉土は、畑を豊かにしてくれる宝物だ。

「うーん、花人族さまさまだなぁ」

 東の山から集めた腐葉土を、花人族たちが畑の改善をすすめてくれた。

 結果として、リィトの植物魔導の出番もないくらいに効率的に収穫が進んでいる。

 早期に収穫物を納品するために実るまでをリィトが〈生命促進〉でブーストし、そこからの管理や収穫を花人族たちが引き継いでいる。

 ミーアとの打合せのためにも、少し現状をまとめておこうとリィトはベンリ草で作った机にむかっている。

「現在の花人族のコテリーは、三十四人」

 これが主な農作業の労働力だ。

 老人や子どもも含めての人数だが、植物の相手に関しては誰もが抜群に優秀だ。もう夜中の作業はやめてもらって、全員で早寝早起きしている。

「経理の処理は、ナビが担当してもらってる」

 ナビは「異世界転生者であるリィトをナビゲートするプログラム」をもとにした人工精霊(タルパ)という性質上、物理的な作業では消耗しやすい。

 アシスト作業として、経理や花人族とリィトの連絡役をつとめてもらっている。

「農作物の卸先は、商人ギルド〈黄金の道〉」

 短毛種の猫人族。食いしん坊で元気なミーアが担当だ。

 売上は上々。ああ見えて、やり手らしい。

「で、トーゲン村についての情報操作は──情報ギルド〈ペンの翼〉」

 長毛種の猫人族、マンマが担当記者だ。酒クズであるところ以外は、可愛らしく愛嬌のある猫人だ。

 今のところ、彼ら以外にはトーゲン村に外部から接触はない。

 二人がギルド自治区ガルドラントとトーゲン村を往き来するのに使っている特急竜車は、運送ギルド〈ねずみの隊列〉のものだ。

 御者は、リィトが帝都から自治区に来るときにお世話になったメル。リィトの力を目の当たりにしている彼女にも、秘密を守って貰うことと引き換えに定期的な大口収入を約束した。

 特急竜車の運賃にプラスして、トーゲン村で育てた芋を毎回お土産に持たせてあげることにしたのだ。

 聞けば、メルの稼ぎで幼い妹と弟を育てているらしく、食べ物はいくらあっても困らないとか。

 この世界では芋はメジャーな主食なので、メルとしても扱いやすいらしい。