人族(ニュート)の文字や言葉については、ナビはある程度の翻訳をしてくれるのだ。転生者であるリィトにとって、ナビの存在は頼もしいことこの上なかった。はじめは声だけの存在だったけれど、彼女に会うために人工精霊(タルパ)として実態を与えるほどには。

 ナビを通して古文書を解読。

 ものの数分もかからずに、ナビが翻訳してくれた内容は神話ともお伽噺ともつかないものばかりあった。

「総括。ナビの共通しているのが──【世界樹】という単語です」
【世界樹】の部分は、古代語そのままだったので意味を教えてもらった。

「世界樹……それって、大昔にあったっていう精霊樹だろ」

「はい。この世界がもっと豊かで、モンスターたちの暴走などもなかったころに世界各地に数本あったと記憶されている、清らかな魔力を生み出す樹木です」

「謎の種子Xが、その種子?」

「いえ、世界樹は光を帯びていたという記述が見つかるのみでして……そもそも、世界樹が種子をつけるというのも聞いたことがありませんし」

「そりゃそうだ。僕だって聞いたことない」

 種子が現存しているとしたら、S級遺物だ。

 特に、植物魔導なんて変な魔導を使う、酔狂な魔導師にとっては重要な情報だ。リィトが聞いたことがないのだとしたら、きちんとした記録は残っていないのだろう。

「みゃ~、この短期間でこれだけ資料かき集めたわがはいを褒めてほしいですにゃ……」

「あ、すまない、マンマ。すごく助かったよ」

 まさか、世界樹なんて単語が飛び出すとは思わなかった。

 リィトがひとりでアレコレ考えていたら、検討すらしなかった可能性だ。

「にゃふっ、お礼はマタタビ酒! それか、頭なでなでですにゃ~」

「えっ、いいのか!?」

 頭なでなで。

 人族(ニュート)よりも小柄な猫人族ではあるが、無断でするのも、許可を申し入れるのも気が引けてしまっていた。

 だが、猫派のリィトとしては、可能ならばしてみたかったのだ。

 もふもふの耳の生えた、柔らかそうな猫っ毛のマンマをもふってみたかったのだ。

「遠慮なく!」

「ふにゃ? え、あ、今のは軽口で……ふにゃ~~~~」

「よーしよしよし! さすが敏腕記者!」

「ふんにゃ~~~~?」

 うきうきで頭を撫で回すリィト。

 まんざらでもなくゴロニャンするマンマ。