「うん。照れるというか、他にも僕のことそう呼ぶやつがいるんだけどさ……こう、ちょっと思い込みの激しいやつでさ」

「思い、こみ……?」

 そう、思い込みである。

 ちょっと一本気すぎる知り合いがいるのだ。

「その人は、お友達ですか?」

「ん? うーん……友達かと言われると微妙だな。でもまぁ。信頼はしているよ」

「……?」

 頭の上にハテナマークを飛ばしているフラウに、リィトは苦笑して言い直す。

「うん、まぁ……友達かな」

 続けて、フラウに言い聞かせる。

「信頼してくれるのは嬉しいんだけど、フラウには普通に呼ばれたい……とにかく、リィト『さま』はやめてくれ」

「えっと、じゃあ」

「リィトさん、あたりで。呼び捨てでもいいよ」

「よ、呼び捨ては、フラウ、恥ずかしい、ですっ!」

「じゃあ、リィトさんで」

「はい、頑張りますね……リィト、さん」

「よくできました」

 親指を立ててみせると、フラウは花のようにはにかむ。ピンク色の髪を彩るつぼみがいくつか、ぽんっと咲いた。

 嬉しいと花が咲くシステム、実に興味深い。

「ま、このやりとり、ほぼ毎日してるんだけどね……」

 いつになったら「さん付け」に慣れてくれることやら。

 まぁ、そんなにこだわってはいないのだけれど。

「さて、カブだっけ」

「はい、フラウがカブを茹でました!」

「そっか、茹でたのか」

「お芋もありますっ」

「あー、芋ね……もうすでに一生分食べている芋ね……」

「はい、フラウが蒸かしました!」

「そっかー、蒸かしたのかー……」

 トーゲン村での暮らしは、おおむね順調だ。

 でも、上手くいってないこともあるんだ。

「そうなのですか。ガッポガポですよ」

「ナビ、僕は商人ギルドを牛耳りたいわけじゃないよ。のんびり土いじりをして、美味しいごはんにありつきたいってだけだ」

 せっかくの隠居生活なのだ。

 はじめこそ、植物魔導〈生命促進〉や〈生命枯死〉を活用していたが、もうそれもお役御免。魔導を使うとしても、品種改良に腰を入れて取り組むときくらいにするとリィトは決めている。

 日常の農作業は、あえて魔導なしで取り組んでいる。

 そういう、ゆったりとした時間がいいのだ。