トーゲン村での暮らしは、おおむね順調だった。

 特に、通販事業は軌道に乗っている。

 主商品は、ベリー各種と加工品。

 品薄の赤ベリーの安定供給はもちろん、使い道のない春ベリーを使ったベリージュースにベリー酒の売れ行きも好調だし、マタタビ酒は猫人族に静かなブーム。猫人族自体が比較的珍しい種族のため、大量に売れるわけではないけれど、猫人族の可愛い姿が見られるということで彼らのパトロンたちがこぞって買い付けてくれるようになった。

 担当者であるミーアは、すでに商人ギルド〈黄金の道〉のエース商人となっているらしい。

 ほぼ休みなく、ギルド自治区とトーゲン村を行ったり来たりしている。

 よく取材と称してマンマと一緒にやってくるが、あれは仕事にかこつけてマタタビ酒を飲みに来ているのだ。

 人生、いや、猫生?

 猫人生、楽しんでいるなぁ……とリィトは微笑ましく見守っているのである。

 リィトはおかげで作物の作りすぎの心配も、金の心配もなくなって、のびのびと自分の畑を耕したり、品種改良に精を出したりしている。

「さすがはマスターです、今月の収支は宮廷魔導師としての収入を優に超えています」

「まぁ、魔導師団内の平均賃金でってこっちからお願いしてたからね」

 妙に高給取りにしてもらって、悪目立ちするのは避けたかったのだ。

 結局は追放の憂き目にあったわけだが、リィトとしてはトーゲン村に越してきて生活の満足度が格段にあがったため、今となっては宮廷には何の未練もない。

 それと、もうひとつ順調なこと。

「リィトさまっ!」

「フラウ」

「お昼の時間です、リィトさま。今日はこのあいだ作付けしたカブが食べ頃ですよ」

「ありがとう、昼はフラウが作ってくれたの?」

「はいっ」

 フラウは、元気よく頷く。

 ミーアから買い付けた可愛らしいエプロンがよく似合っている。

 このところ、フラウの人族(ニュート)語の成長がめざましい。

 ずっと基礎的な学習を続けていたところに、リィトとナビという話し相手ができたのだ。実践に勝る勉強はなし──メキメキと上達を続けている。

 ほとんど会話には困らないレベルになっている。

「フラウ、だけどその『リィトさま』っていうのはやめてね」

「えっ、だめですか」