ロマンシア帝国、帝都。

 上大陸を支配する大帝国の、軍事中心地だ。

 白亜の城と名高きロマンシア城に、凜とした少女の声が響いた。

「リィト・リカルトを追放した?」

 アデリア・ル・ロマンシア。愛称はアデル。

 ロマンシア帝国第六皇女だ。

 ついでに、第十五騎士団の名誉騎士団長でもある。

 皇族、しかも皇女が名誉騎士団長に就くというのは、通常は名前だけ。

 式典に騎士団の制服を模したドレスを纏って、形だけ出席する。そのはずなのだが、アデルは違った。

 上大陸を百年にわたって苦しめたモンスターとの攻防の最前線に立ちたがる、じゃじゃ馬おてんば姫だ。

 第六皇女という、継承権争いと薄い存在であることや、与えられたのが第十五騎士団という、いわば予備隊に近い弱小騎士団であることもあって、お目こぼしをされている状態だ。

 いや、正確にはアデル自身がたゆまぬ努力によって、騎士団を率いて実務に耐えうる──あるいは、それ以上の実力をそなえているのだが。

 上大陸の各地にある地下迷宮(ダンジョン)跡地の巡回任務から戻ったアデルは軍服を脱ぎ捨て、今は淡い空色のドレス姿だ。美しい金髪と、同じく空の色をした瞳とよく調和するドレスである。

 十九歳。美しい盛りのアデルは、声を震わせていた。

「信じられませんわ、リィト様を追放……? あの方が、いったいどれほど我が帝国の勝利に貢献してくださったか、宮廷魔導師たちはわかっていますの?」

 皇女アデルはロマンシア帝国の騎士として、対魔戦争の最後の一年間だけだがリィトとともに戦った。

 いわば、戦友。

 リィト本人が、身分や実績を隠して宮廷魔導師として暮らしたい──要するに、英雄という栄誉を捨てたいと願ったときに、紆余曲折ありながらも手を回した張本人だ。

 自分の活躍を頑なに隠そうとするリィトの功績を、皇帝に知らせたのもアデルだった。植物魔導などという、戦闘には役に立たないとされてきた超マイナーな魔術を操る者が巷で噂の「天才」であるとは、誰も思わなかった。

 リィトを、尊敬していたから。

 彼が幸せに暮らせるならば、リィトの望みを叶えたいと思ったのだ。