花人族のマタタビ酒は、この猛虎型モンスターと戦うための道具だったのだ。

「……猫人族が来たときに、すぐマタタビ酒を用意したの……そう考えると意味深すぎないか……?」

 あの二人がぐでんぐでんに酔っ払ってしまうと知っていたってことだ。

 いや、もちろん他意はないと思う。

 花人族たちには、敵意とか意地悪というものが存在しなさそうだ。ただただ土と向き合う、素朴な種族。

「うん、一応マンマとミーアには黙っておこう……」

 モンスター対峙用のお酒を喜んで飲んでいたっていうのは、微妙な気分になるだろうし。

「ふにゃぁ……リィト氏の活躍……これ、情報売っちゃダメですにゃ……? 吟遊ギルドの連中がほしがるのにゃ……」

「ニャニャ!」

「ダメです、取引を打ち切るよ?」

「ぐぬぬぅ……マンマ、そのメモは捨てるニャッ。ビッグビジネスチャンスをみすみす逃すのは馬鹿だニャッ」

「フにゃ~……」

「マタタビ酒おまけするから、頼むよ」

「むっ!? そ、それなら仕方ないですにゃ~」

 まんざらでもなさそうな、マンマ。なかなかのウワバミだ。

 とうの猫人族ズは、自分たちが飲んだものの正体には思い至っていないようだった。基本的に猫人族は、楽しくて美味しくてノホホンとしたものが大好きな──わりと刹那主義な種族なんだろう。

 ナビがモンスターの活動停止を確認し、リィトに向き直った。

「マスター、当該モンスターの処理はいかがいたしますか?」

「んー、そうだな」

 基本的に、帝国でのモンスターへの対応は「排除」だ。

 リィトの知り合いでどういう理屈か知らないが大型モンスターを飼い慣らして使い魔にするという離れ業を行う馬鹿がいたけれど、そうでないなら帝国式が無難だろう。

 さて、どうしたものか。

 リィトが考えていると、花人族が動き出した。

「ん……?」

 完全に沈黙した猛虎のしっぽを、花人族たちがヨイショヨイショと引っぱっている。

 小さな体で農作業をもりもり進められる、力強い手足でモンスターをずりずり引きずっていく。

「東の山に返そうとしてる……?」

「そのようですね、マスター」

「襲われたのに、どうして……?」

 不思議に思っていると、フラウが辞書を見ながら説明してくれた。