リィトは幼い頃から、決して戦闘に特化しているわけではない植物魔導を駆使してモンスターと戦ってきた。

 ──特級モンスターと、だ。

「ま、バーベキューの煙に誘われてやってきたのなら、僕のせいだしね」

 宮廷魔導師として暮らしてきた日々で、少しは鈍ってしまっているかもしれない。むしろ、腹ごなしのいい運動だ。

『GYAAAAAAAAAA!!!』


 出現したモンスターは猛虎型の獣だった。

 見たところ、中級から上級といったところだ。リィトの敵ではない。

「ウニャーーーーーっ!? なななんだニャ!?」

「ほにゃ? わがはい、酔いすぎたぁ? げ、げ、幻覚がぁ~~」

「り、ぃとさまっ!」

 平和なバーベキュー会場に悲鳴。

(……とっとと片づけちゃおう!)

 懐かしさすら感じる咆吼に、リィトはポケットから種子を取り出す。

 戦闘特化ベンリ草。

 ギルド自治区でチンピラ相手に使ったものを汎用あるいは捕縛用、あるいは雑魚用とするのならば、もう少し殺傷能力にすぐれている。

 トゲがびっちりとついているのだ。

 毒を纏わせることもできるし、麻痺や昏睡さそう成分を分泌することもできる。念のための護身用に持っていてよかった。

 せっかく耕した土地に、こんなモノを蒔くのは気が引けるけれど。

「ナビ、みんなの避難を!」

「はい、マスター」

 指示と、応答。

 同時に、リィトは〈生命促進〉の魔導を発動した。

 リィトの魔力を糧にして、爆発するように成長したベンリ草は、まるでリィトの手足のように意思をもった動きで猛虎型モンスターに襲いかかる。

 あたふたと逃げ惑う猫人族の美少女二人組の首根っこをナビがむんずと捕まえる。パニックを起こしかけているので、そのまま引きずって避難させるつもりだ。ナビは見た目に反して、それなりの豪腕である。

 花人族たちに戦闘能力があるとは思えないので、彼らもなるべく遠くへ避難させたいところだ──と、リィトが考えていた、そのときだった。

「やーーーっ!」

 フラウの母、つまりは花人族の長が可愛らしい声で号令をかけたのだ。

 リィトはモンスターを押さえ込みながら、「ん?」と首を傾げる。

 号令?

 まるで、集団戦のような──。

「「「やーーーっ!」」」

 族長の号令に、花人族たちが応える。