異世界というからには、モンスターがいる。

 ドラゴンとかゴブリンとかツノウサギとか、定番のやつらでどいつもこいつも凶暴だ。

 ロマンシア帝国のある上大陸は、百年前に突如あらわれた地下迷宮(ダンジョン)から湧き出てくるモンスターによって戦乱状態となっていた。

 下大陸は、当時すべてのギルドを統括していた大統領によって、上下大陸を細長く繋いでいる陸地に、巨大な城壁を築いた。

 切り立った渓谷を利用した、大城壁に守られた都市。それが、いまのギルド自治区の中心地〈ガルトランド〉の前身だ。

 モンスターの大発生を境に上下大陸の架け橋となる陸地は封鎖され、往き来は厳しく制限された。

 つまり。

 下大陸には、ほとんどモンスターはいない──というのが定説だ。

「なんで、こんなとこにモンスターが?」

「下大陸にモンスターがいない、というのは上大陸の定説です。ナビは上大陸での活動と地下迷宮(ダンジョン)攻略にあわせてチューニングされたサポートシステムです」

「……つまり?」

「下大陸にモンスターがいるとしても、不思議ではないかと」

 ふむ、とリィトは唸る。

 たしかに、下大陸の事情はリィトもほとんど知らない。帝国側にいると、ギルド自治区のことには疎くなってしまうのだ。

 だが、下大陸にも少ないながらモンスターは存在するとしたら?

「あー、そうしたらこのあたりの土地が全然開拓されてないのも頷けるかも」

 そして、土地の広さのわりにはあまりにも値段が安かったのも。

 土地管理局も、一言くらい注意してくれてもいいものだけれど。

「……花人族たちのコロニーが栄えていないのも、そういうことか」

「それ以外にも理由はありそうですが」

「数は?」

「一匹ですが、中級以上かと」

「なるほどね」

 下級、中級、上級。

 モンスターは危険度によってランク分けがされる。

 下級ならば、一般的な兵力で相手になる。

 中級ならば魔導師が必要。

 上級ともなれば、魔導小隊ふくむ、それなりの兵力で対峙する相手となる。

「撤退しますか?」

「まさか」

 リィトは肩をすくめてみせる。

「トーゲン村を放棄するにはおよばない。物足りないくらいだ」

 転生者にして英雄として、そして鬼のような師匠の弟子として。