さらに輸送のために自治区にいる魔導技師(自治区では魔導を使える人間は限られている)に氷魔導を依頼したとなれば、かなりのコストがかかっている。肉そのもののありがたさも、高級品へのありがたさも、いっしょに味わうことにしよう。

 ぱくり、と肉を頬張る。

 まず、塩ニンニクのパンチ!

 噛みしめると焦げ目のうまみを追いかけて、肉汁がじゅわっと溢れてきた。

 塩辛くもない。

 味が薄くもない。

 和牛の柔らかさとまではいかないが、何百回噛んでも噛みきれない筋張った肉でもない──。

「う、うっ……!」

 呻くリィトに、周囲が慌てふためく。

「りぃとさまっ?」

「にゃんと、事件のかほりですにゃ」

「大丈夫か、リィト氏ぃ!? ま、まさか毒かニャッ!?」

「……はぁ」

 最後の溜息は、ナビだ。

 リィトは、万感の思いで言葉を絞り出す。

「~~っ、うまいっ!」

 いや、本当に美味しい。

 シンプルな味付けだけれど、極めて美味しい。

 他にも、具材がどろどろに解けていないシチューや、香辛料たっぷりのカレーなど、作りたいモノはまだまだある。

 でも、今はこのシンプルなバーベキューが大成功したことを噛みしめたかった。

「び、びっくりしたニャ」

「ふ、ふえぇ」

「ふにゃ……いけないリィト氏だにゃぁ~、フラウを泣かしましたにゃ……」

「えっ!? わ、ご、ごめんよ」

 肉汁のしみた野菜は花人族たちにも大好評。

 マタタビ酒でごきげんな猫人族ズと、陽気な花人族によるダンスパーティーまで始まった。

 しかし、やはり昼からバーベキューは最高だ。

 畑仕事にバーベキューと来たら、魚釣りも楽しみたいところだけれど……近くに手頃な水場がないのが悔やまれる。

 買った領地の西にあるはずの断崖絶壁と激しい波がしぶきをあげる海は、のんきに魚釣りとか言っていられない荒海みたいだし。

 リィトにしきりにお酌をしたがっているフラウに「いや、手酌でね」と遠慮しながら、真っ昼間からのバーベキューを楽しんでいると、休眠モードになっていたナビが突如顕現した。

 真剣な表情。

 リィトは、ナビの様子に姿勢を正す。

「……マスター」

「どうした」

「報告、敵性反応です」

「……人?」

「いえ」

 ナビは声を低くする。

「──獣型モンスターです」

***