もちろん、自身の植物魔導で育てた作物は味もばっちり。えぐみも少なく、うまい野菜や果物ばかり。

 ただし、加工品となれば話は別だ。リィトには料理の心得は、あまりない。

 花人族たちの醸造技術は優れているものの、基本的には茹でるとか蒸すみたいな原始的な調理しかできないようだ。それでも、帝国やギルド自治区の、塩辛いばかりの芋よりは幾分おいしいけれど。

(うーむ……あれだけ発展しているギルド自治区でも、『魔物との戦争と軍事極フリの帝国よりはちょっとマシ』程度だもんな……たぶん、美味いものを喰おうっていう文化自体がないのかもしれない)

 少し込み入った話なので、傍らで聞いていたフラウが目を白黒させている。

 ナビがかみ砕いて説明をしてくれているので、心配はないだろうけれど。

 話の内容を理解したナビは、「すごい、です!」とパチパチ拍手をしている。何がスゴいのかはわからないけれど、とにかく畑をもっと広げてもいいというのはフラウたちにとって喜ばしいことらしい。

 そういえば、最近ちょっと花人族の人数が増えている気がする。

 はじめは三十人かそこらのコロニーだったのだが、農作業をしている人数がどう見ても五十人ちょっとはいるのだ。

 もしかして、殖えた?

 いや、それとも移住者だろうか。

 ……あとでフラウに聞いてみよう。いや、特に人数が増えて困ることはないのだけれど。

 物思いにふけっていると、ちょいちょいと服の裾を引っぱられた。

 ニャンコ娘二人が、リィトを上目遣いで見つめていた。

「ん? なんだ」

「ひとつ、ここの領主であるリィト氏にお願いがあるニャッ!」

「お願い?」

 たしかに土地の持ち主ではあるから、領主ではあるか。

 少しくすぐったい呼び名だけれど、「村長」とかよりはいい。長と名の付く肩書きはこりごりだ。統一騎士団長とか、宮廷魔導師長とか……係長とか、バイト長とかね。色々経験したけれど、肩書きなしの気ままさが今は一番ありがたい。

 それで、お願いとはなんだろう。

「ここの村の名前を教えてくれニャ!」

「……名前? ここの?」

「ふにゃ……わがはい、困っているのですにゃ……神秘と謎の辺境の大地、あるいはベリーたわわプレイス……色々な呼び名を駆使して情報を売っているのにゃが、やっぱり呼び名がほしいのにゃ~」