「こっち?」

「自治区から遠く南下した土地で作られる、知る人ぞ知る名酒。謎多き花人族の秘宝!」

「えー、なんか地味ですにゃ……『荒廃した土地を耕す謎の魔導師!』のほうがかっこいいのと思いますのにゃ……」

「甘いな」

 リィトは、ぴっとマンマに指を突きつける。

「情報というのは、小出しにするのがいいんだ」

「む? 情報ギルドのスゴ腕記者ことわがはいに、情報の売り方の講義ですかにゃ……?」

 耳をピコピコ動かすマンマ。

 リィトは畳みかける。

「どうやら、この土地が開拓されるのはほぼ初めてらしいじゃないか。たしかに自治区からは遠すぎるし、目立った地下遺跡(ダンジョン)もないし、荒廃しているしカラカラに乾いているし、開拓する旨味はないよね」

「ふむ?」

「でも、実際は花人族が住んでいた。これは、ギルド自治区からすれば発見だろ?」

「たしかに、そうとも言えますにゃ?」

「その開拓情報を、小売りにするんだよ。ミーアがうちから仕入れる酒についての情報を、マンマが売る……味は抜群だから、必ず売れる。そうすると、この旨い酒はなんなのか、誰が作っているのか、知りたくなるのが人情だ」

「その情報を、わがはいが売ると?」

「ああ。場所を特定されないように、僕の正体を知られないように、少しずつ客を焦らすんだ」

「ほうほう」

 いいぞ、とリィトは思う。

 マンマが前のめりになってきた。

「そうすれば、この土地の情報は定期的に売るよ」

「ふむぅ……」

「ネタは多いよ? 花人族の生態、下大陸の荒廃地域の現状、それに今は話せないこともね」

「にゃ……は、話してくれないのかにゃ!?」

「情報ってのは、タダで仕入れられるものじゃないだろ?」

「ぐにゅっ」

「ミーア、商人ギルドは、仕入れをタダでするものか?」

「ニャッ、ミーか? そんなウマい話、あるわけないのニャ。仕入れ値と売値をどう調整するかが、商人の腕の見せ所ニャ。……む、情報ギルドってのは、そう考えるとセコい商売だニャ」

「ふにゃ、み、ミーアまで何を……」

「というわけで、マンマ。取引だ」

 いい感じにリィトのペースになってきた。

 たじたじしているマンマに、条件をつきつける。

「僕が流した情報に限って、いくらでも売っていい。ほかの情報ギルドには売らないよ、専売だ」