手頃な岩に座り込んで、ふぁーあと大あくびをしている。

「ミーアの安請け合いは相変わらずにゃぁ……ふあ、長旅で疲れたにゃ……」

「えぇっと、君は?」

「にゃんと、わがはいを覚えていないとは……さすがは、注目のスタァですにゃ~」

「どこかで会った?」

「うにゃ……では、ヒントですぅ。圧巻に襲われるヒロインムーブですにゃ」

「まったく覚えがない」

 ナビに訊ねてみると、ギルド自治区ガルトランドでチンピラに絡まれていた女の子のようだった。

 リィトは「あー……」とあの夜のことを思い出す。

 ほろ酔いで気分がよかったのもあり、ちょっと調子に乗りすぎた。チンピラをちょっとこらしめた、あのときの子か。

「ああ、あの!」

「にゃふふ、勇姿はしっかりと報道しておいたから感謝してほしいのにゃ」

「報道?」

「うむり~。わがはいは、マンマ。情報ギルド〈情報の翼〉のエース記者ですぅ」

「情報ギルド……っ!」

 まずい、とリィトは思った。

 情報ギルドは、隣の夫婦喧嘩から極秘の地下迷宮情報まで、あらゆる情報を売り買いしている。

 帝都にも小さいながら支部があって、冒険者相手に言い商売をしていた。眉唾モノの情報は安く、信頼性の高い情報ほど高額。ただ、ゴシップ的な噂話については、町中にガンガンばら撒いていくスタイルだ。

 妙な噂になったら、まずい。

 ここは情報統制をしておきたい。

「ひ、ひひひ、人違いじゃないか?」

「マスター、嘘が下手ですね」

「ナビ!」

「おお、空中から美女が! めもめも」

 顕現したナビを見て、マンマがメモ帳にペンを走らせる。

 これは本格的にまずい人材が入り込んでしまった。

「ねぇ、マンマ」

「帝都からやってきた天才魔導師の情報、わがはい、欲しいにゃ~」

「うわ、やめろ。尻尾をふるなよ、尻尾を」

「にゃ~♪ 洗いざらい話してしまうといいですぞぉ~」

「くっつくなって、うわ、やめろ……モフモフのしっぽでほっぺたを撫でないでくれっ……!」

「マスター、デレデレですね」

「やめろナビ……っ、冷たい目で見ないでくれ……っ」

 もふもふの魅力は抗いがたい。

 いやいや、ここは毅然とした態度を貫かねば。

 有名になんてなりたくない。

 ここでまったりと、大好きな植物をいじって暮らしたいんだ。