「赤ベリーの卸し先は決まっているから、まぁいいとして」

「り、ぃと様?」

 きょとんとした顔でこちらを見上げるフラウ。

 そのとき。

 ナビが起動した。

「マスター、領域内に侵入者が」

「ん?」

「猫人族のようです、二匹」

「こらこら、匹って言わない。人権問題になるよ」

「この世界に人権という概念があるとは、ナビは驚きです」

「もう、またそういうこと言って……」

 帝国でリィトが「施しの聖者」とも呼ばれた理由は、ただただ当然に人に親切にしていただけだった。それらの振る舞いすべてが、異世界ハルモニアでは信じがたい善行として捉えられたのを思い出す。

 わりと野蛮な異世界である。

「排除しますか?」

「いやいや、やめてね。ナビ」

 リィトは、ナビの指さす方向を見る。

 真っ平らな地平線を背にして、一台の特急竜車が走ってくるのが見えた。

「お客さんだ、おもてなしの準備を」

「はいっ! リィトさま」

 ぴしっ、と敬礼をするフラウ。間違いなく、師匠仕込みの敬礼だな……とリィトは遠い日の修行を思い出して遠い目をした。

「フラウ、村のみんなを集めてくれ」

「はいっ!」

 また、ぴしっと敬礼。畑仕事をしている仲間の元に走って行った。

 フラウのピンク色の髪の毛に咲く花が揺れて、いい香りがあたりに広がった。

 フラウの背中を見つめながら、ナビが抑揚のない声でいう。

「マスターも、立派な村長ですね」

「……やめてくれよ。気ままな隠居生活を手伝って貰っているだけなんだからさ」

「ナビの予想ではそれは上手くいかぬかと。マスターは、アレですので」

「だから、アレって何さ」

 猫人族二人を乗せた竜車が、どんどん迫ってくる。

(……ん、二人?)

 リィトは首をひねった。

 領地に呼んだのは、商人ギルド〈黄金の道〉のミーアだけのはずだけれど?