「うーん、作りすぎだよね?」
「そ、う、ですか?」
「うん……君たち、これ全部食べるつもり?」
「こっち、ぜんぶ、飲みます」
「うんうん」
こっち、と春ベリーを指さすフラウ。
「そっち、ぜんぶ、いりません」
次に指さした「そっち」はもちろん赤ベリーだ。
リィトが必要なのは赤ベリーだから、まさにWIN-WINの関係だ。
「いや、いやいやいや。それにしたって……」
今まさに収穫できたぶんはさておき、目の前にはベリー畑が広がっている。
植物から収穫を得るというのは難しいもので、ちっとも見返りのない期間というのが続いたあとでから、もう獲れて獲れてしかたがない時期というのが来る。種類によるけれど。
ベリー類なんかは、特にその「ウハウハ期」が顕著な植物で、むしろ実をとらないでおくと、実が腐ってしまったり、栄養が未熟な実に行き渡らなくなってしまったりと、困ったことが起きる。
つまり。
これからは、この山のようなベリーが毎日収穫できてしまうのだ。
消費との勝負だ。
「春ベリー以外は、何か作付けしたい植物はあるかい?」
「……んっと、おいも」
「芋か」
育てやすい芋は、帝国でも自治区でも人気の穀物だ。
味気ないマッシュポテトは、リィトが転生してから嫌と言うほどに食べた。モンスターとの戦争状態だったから、食糧事情が悪かったのだ。
隠居生活のついでに、おいしい食べ物を増やしたい。
品種改良には、リィトといえどもトライアンドエラーが必至なのだ。
「ゆくゆくは、ジャンクフードとかも食えるようになるといいな……」
異世界生活は悪くないが、食べ物だけはやや不満が多い。
しょっぱいか、味が薄いかの味付け。
限られた品目ばかりのメニュー。
農耕があまり発達しておらず、芋や小麦などの限られた作物ばかり育てているからだろう。
この世界で美味しい料理を食べられるようになりたい。
ギルド自治区のビールは悪くなかったし、枝豆とかあったら美味しいだろうな──それはそれとして、ベリーの処理だ。
これ、たぶんお金になる。
そして、リィトの野望の第一歩にも。
春ベリーで作った美味しいポーションの味を思い出しながら、リィトは思考を巡らせる。
作物は、作るだけではダメだ。