「今から、うちの畑に春ベリーを植えよう」

「──っ!?」

「僕は地下水をくみ上げられる。土地が潤って鉄分もしっかり補えれば、あとは僕の〈生命促進〉でどうにかなると」

「ぁ、ほ、んと?」

「うん。でも、水まきや土地の治療には人手が必要で──」

 ふいに、フラウがすくっと立ち上がった。

 可愛い頬を興奮で赤く染めて、ぐっと両手で拳を握っている。

 そして、リィトにはわからない身振り手振りでリィトたちを遠巻きに眺めていた花人族たちに、何かを伝えているようだ。

 リィトの語ったことを伝えてくれている。

 そして、たぶん、リィトに協力をしようと説得をしているのだ。

「……初対面なのに、信じてくれるんだ」

 英雄の肩書きもない、ただのリィトなのに。

 肩書きではなく、自分を見てくれる相手なんて久しぶりだ。

 ほどなくして、フラウはまだ動ける花人族たちと一緒にリィトのもとに戻ってきた。

「……これだけの花人族が手伝ってくれるなら、かならずあの畑はうまくいくよ」

「……ほ、んと?」

「ああ。なんていったって、花人族は大地と共に生きる種族なんだろ。きっと僕なんかよりも、ずっと土いじりが上手いはず」

 フラウはぐっと背筋を伸ばして頷いた。

 春ベリーにはもうひとつ花言葉がある。

 ──「不名誉を覆す気高さ」。


 ◆


 三日後。

 リィトは村を挙げての大歓迎をうけていた。

「あ、あの……こんなご馳走食べきれないんですけど」

「アリガト! アリガト!」

「この王冠もちょっと……」

「アリガト! アリガト!」

「あと年頃らしき娘さんたちを侍らせるのもやめてください、その、あなたがた全体的に小さいので犯罪感が出てしまっているので」

「アリガト! アリガト!」

「……だめだ、ラチがあかない」

 この集落で人族(ニュート)の言葉があるていど理解できるのは、フラウだけらしい。フラウが教えた「アリガト!」をひたすら繰り返してダンシングナイトを過ごしている花人族たちは、みなキラキラした尊敬の眼差しでリィトを見つめていた。

 頭を抱えて、状況を整理する。

 王か教祖か救世主かというくらいに歓待されているリィト。

 その原因は、蘇らせた春ベリーだった。


 ベンリ草で作った水道で地下水をくみ上げた。