期待に満ちたキラキラの視線が、ほっぺたに突き刺さっている。

「マスター、困っていますか?」

「僕が植物のことで困るとかありえない」

「無自覚ですか。アレすぎます」

 春ベリーへの処置は、手早く終わった。

 昨日から出しっぱなしだった地下水をたっぷりとやった。あまり一気に水をやるのはいただけない。根腐れを起こさないように、注意が必要だ。

「──〈植物治癒〉。ぬくぬくと治れ」

 リィトは春ベリーに手をかざす。

 癒やしの力。効果は植物限定だけれど。

「まぁ、植物自身の治癒力を応援してやる程度だけど。病気の原因をきちんと取り除いてやらなくちゃいけないし」

 万能の治癒力なわけではないが、この世界ではリィトしか使えないオリジナルの魔術だ。

 ほとんどの魔導師は生涯をかけてオリジナルの魔術を開発することを目標にしているわけなので、規格外の力ではあるのだが。

 まったく、誰も植物に興味を示さないなんて信じられないな。

 幼い頃、神童と呼ばれていたリィトを鍛えに鍛えてくれた師匠ですら、はじめは「は? 植物ぅ?」とコンビニ前でガンつけてくる不良みたいな表情で首を斜め四十五度に傾げていたものだ。

 ……あの日々を思い出すだけで、ちょっと胃が痛い。楽しかったけど。

 そんな思い出に浸りながら〈植物治癒〉を続けていると、春ベリーが応えてくれた。

「……お、来たね」

「あっ! あぁっ!」

 フラウが、身を乗り出して声をあげた。

 春ベリーが蘇ったのだ。

 ぱちぱち、と手を叩いて喜ぶフラウの髪の花に異変が起きる。

 大きな花がひとつ咲いていた蔓のつぼみが、次々に開花したのだ。

 色とりどりの花が、フラウの髪に咲き乱れる。

 嬉しいと、花が咲くのか。

 はじめて目にする花人族の生態に、リィトは感嘆した。

 植物好きのリィトにとって、文献で読んでいた花人族というのは興味深い存在である。うわ、見たことのない花!

 みるみる艶々になった葉っぱから、ぽたりと滴が滴る。

 ──フラウの涙だった。

「あ、りがと……ありがと、ございます!」

「へ?」

 ぎゅうっと、リィトは温かい体温と優しい香りを感じた。フラウだ。力一杯、リィトにぎゅうぎゅうと抱きついてきている。

「フラウのマスターへの好意が上がりました」

「ナビ、休眠(オフ)