あわわ、と震える少女。

 まともに言葉を喋れていない。

 ナビが無機質な声でナビゲーションをしてくれる。

「花人族は開拓された土地には住まないため、人族(ニュート)の言語を理解しないというのが定説です」

「ふむ」

 少女は大切そうに苗を抱いている。

 他人の畑に勝手に苗を植えるほど、この苗を育てなくてはいけない理由があるらしい。

「安心して、大丈夫」

 リィトの言葉に、花人族の少女の表情が緩む。

「……君、名前は?」

「ふ、らう」

「フラウ?」

 こくこく、と花人族の少女はヘドバンかってほどに激しく頷く。

「そ、そう、です! フラウ、が、名まえの、フラウなのですっ!」

 ものすごいカタコトだった。

 言葉が通じるのが嬉しくて仕方がない、という様子だ。

 どうやら簡単な言葉が分かるようだし、意思疎通はできるみたいだ。

「僕の専門は植物魔導だよ。それに元宮廷魔導師で──」

 肩書きで相手を安心させられるなら、安いものだ。

 人の噂が立つような人もいない荒れ地だしね。

 けれど、少女はきょとんとしてクビを傾げている。

「……?」

 ほほう、とリィトは唸った。

 この子には宮廷魔導師というものに関して何の知識もないらしい。この分だと、侵略の英雄の噂だって当然知らないだろう。

 リィトは一気に少女に心を開いた。

 この子は絶対にのんびり隠居生活を送るのに脅威にはならない。

 と、同時に。

 リィトは春ベリーの病状を理解した。

「この苗の病気、僕なら治せるよ」

「……あ、え?」

 少女の目が、輝いた。


 ◆


 畑に戻って、春ベリーの前にしゃがみ込む。

 リィトの隣には、ちんまりと花人族の少女フラウが座り込んでいる。

「水切れと鉄欠乏。ベリー類、とにかく春ベリーは鉄分を食う植物だからね」

 リィトは説明をしながら、持ち歩いている鉄粉を畑に蒔いた。

 昨日は土をほぐしただけなので、土壌の性質までは気にしていなかった。

「鉄粉を蒔くのは、その場しのぎだけどね。君の苗を育てるだけなら問題ないだろう」

「……は、い」

 こくこく、とリィトの言葉に頷くフラウ。

 言っていること、わかっているのだろうか。

 リィトは作業を進めながら、この少女との距離感を測りかねていた。