この世界には、人族(ニュート)と呼ばれるいわゆる人間の他にもたくさんの種族がいる。ちょっとずつ、見た目に特徴があるのだ。

 猫人族や犬人族などは、帝都でもギルド自治区でも街中でよく見かける。

 けれど、花人族。

 開拓が進んだ土地では、姿を見ることがない。

 帝国がモンスターたちと長らく闘いを繰り広げていた上大陸では、リィトが知る限りはまったく目撃例がなかった。

 自然に生き植物を育むのに長けた、花人族。

 文献や伝聞では知っていたけれど、実在するとは驚きだ。

「そこの素敵なお嬢さん、最高だよ!」

「え、はい……えっと……?」

「マスター、花人族からの警戒レベルが上がりました。少々行動がアレでアレで極めてアレなのでは」

「アレってなんだよ、アレって!」

「秘匿事項です。マスターの名誉に関わりますので」

「名誉毀損で訴えてやるぞ」

 リィトとナビが軽口をたたき合っていると、ふるふると震えている花人族の少女がリィトを上目遣いで見つめる。

「あ、こ、こわいこと、する、ますか……?」

 たどたどしい舌っ足らずの声で必死に話し掛けてくる少女の手には、春ベリーの苗が握られている。

 間違いない、畑を荒らしたのはこの子のようだ。いや、荒らしたといっても畑に作物を植えたわけで──むしろ、お手伝いだろうか。

 リィトは少女に向き直る。

 きみの名前は?

 他に花人族はいる?

 どうして春ベリーを勝手に植えたの?

 色々と聞きたいことがあるけれど、まずやるべきことはひとつ。

「……キミ、大丈夫?」

 リィトは少女に手をさしのべた。

 じっと自分を見上げる少女。

 その手に抱えている、春ベリーの苗にリィトは目を留めた。

「ん?」

 ハート型の葉っぱがキュートな春ベリーの苗。

 しおしおと元気のない葉っぱは、緑色が薄くて黄ばんでいる。さらには葉のところどころが赤黒く変色している。

 病気だ。

 植物の病気はやっかいだ。

 しかも、植物を育てるのに長けている花人族の少女が手を焼いているということはやっかいの中でもやっかいなものなのかも。

 震えている花人族の少女を怖がらせないようにしながらも、リィトは興味津々で苗に手を伸ばす。

「……もしかして、その苗が上手に育たないんじゃない」

「あ、あの……あっ」